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おめざめ。なのー!4
【5】
「ふぁ……ただいま」
しーちゃんと別れて、ぼくは『シェアハウス』へと戻ってきた。電気がついてないから薄暗いや。
……。
相変わらずしんとしていて、ぼく以外の誰かの気配がない。
(みんな。ほんと……会おうともしないんだから)
相変わらずしんとしている『シェアハウス』。この間まで、ぼくの他にも誰か住んでいた気がしたんだけど。
「……」
ぼくと、寮母さんしか住んでいないような。そんな気もするけど、ホントのことはわからない。
「さてと……」
砂ぼこりにまみれた服を、『洗濯機』に放り込む。これはボタン1つで、洗濯から乾燥までやってくれるすぐれもの。
これは『もんのむこう』のひとたちが、発明したすごい機械なんだ。
「ふぅ」
お腹は空いてないから、シャワーを浴びにいこう。この時間は誰も使ってないみたい。よかった。ぼくはそのままシャワーを浴びた。
ぐい。と捻るだけで、温かいシャワーが使える。仕組みはわからないけど。とても便利だと思う。
けど、髪を洗うのがちょっと大変。ぼくの髪。長いからさ。ごしごし。わ! シャンプーが口に入った! うげ! 苦い! ぼくはシャワーのぬるま湯で口を漱いだ。
「はーっ」
汚れを落として、さっぱり。
でも、疲れは全然取れなくて……。
ぼくは、真っ白い下着姿で、シャワールームから出た。……やっぱり誰もいない。寮母さんはお買い物中なのかな? またぼくのために痩せた野菜を探しに行ってるのかも……。
(寮母さん。身体壊さないでほしいな……)
寮母さんは『よそもの』だから、生まれも育ちもオトギリ町のぼくー『純血』とは基本一緒に過ごせない。だから、ほとんどすれ違いになっちゃうんだ。
そんな区分? 区別……いらないのにね。
……寂しい。
「部屋戻ろう……」
……。
しんと静まり返った廊下。たまにぎこぎこ音が聴こえるから、誰かしらはいるみたい。誰かはわかんない。
2階のドアはかたく閉まってて、厚いガラスの先も真っ暗。ぼく。2階は入ったことない。そのまま自分の部屋がある3階行っちゃうし……。
はー……。
ぴりぴり重い空気に、ぼくは気持ちが押されそうになった。この空気。慣れない……。
ぎい。『シェアハウス』は古い建物だから、しょっちゅう軋む音がする。ゆっくり歩いていても、床が抜けそうで怖いな!
「ぁ……」
(こころが休まらないなぁ)
ぼくは誰とも会わずに、自分の部屋に戻った。ごろりと寝転ぶだけの『ドミトリー』。けれど。寝るにはちょっと早いから……本でも読もう。
ぺら。
『誰か』を『好き』になった……ときに、読む……物語の本みたい。図書館のひとにおすすめされたけど、ぼくにはちょっと恥ずかしいタイトルだ。短いお話が沢山収録されていて、どれも面白そうだけど。
ちょっと照れくさい。
恥ずかしい気もする。どきどき。
でも、別におかしな本じゃないし……。
「ふふっ」
ぼくは、眠くなるまでその本を読みすすめた。
……。
……。
……。
……。
うう。
……どうしてだろう。
心がぽっかり。空いちゃった……。
寂しい。つらい……。
ううん。ちょっとちがう。
かわいそう。それも、ちがう。
ぼくは、本をそっと閉じた。けれど、まだ。ぼくは本の世界にいる。
――目を閉じても。
――目を開けても。
『あの子』が、ありありと浮かんでくる。
ぼくは天井を見つめていた。
あ、ああ……。
物語の『あの子』は、救われたのかな……。
ぼくは『あの子』の姿を見た。本の中の『あの子』ーー『少年』は、きっと。幸せだったと……。最後に『幸せ』になれたと……ぼくは、思いたい。
そして。ぼくは、『あの子』のために涙を流したい。
『あの子』は、最期に幸せになれたんだ。
ぼくは、ずっと。そう願ってる。
……でも。幸せって、なんだろう。
誰かを『好き』になれたら、ぼくも幸せになれるの、かな?
つう。ぼくはひとすじ涙を流した。
――この夜。『あの子』のために、ぼくは泣き続けた。
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