憂鬱なお茶会

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憂鬱なお茶会

(早く帰りたい)  王城の庭園の角で笑みを貼り付けながらこっそりとわたしは俯く。  下げた視線の先には色とりどりのドレスがずらりと並んで、彼女達の動きに合わせて揺れている。明らかに男女比が偏っているのは、ここがお茶会という名目で開催された第一王子の婚約者を探す為の面接会場だからだ。  自分以外の誰を蹴落とそうかと品定めする眼とかち合いたくなくて、なるべく目立たないように会場の隅に移動する。本当は具合が悪いと言って休みたかったところだけれど、そうすると何故かエドワードが見舞いに屋敷まで訪ねに来るので、大人しくお茶会には参加することにしたのは、彼と一対一で会うくらいならば、大勢の中に紛れてしまうほうがまだマシだという卑屈な思いから。 (……なんで面識もない相手の見舞いにわざわざ来るのかしら?)  チラリとエドワードを盗み見れば、彼は大人達に囲まれていた。恐らく彼らは自分の娘を売り込もうとご機嫌を取りながら必死にアピールしているところだった。 (ご苦労なことね)  どうせ彼が想いを寄せるのはわたしの妹だ。その事実を知っていると大人達の行動が少し哀れに思える。けれどそれは自分も同様なのかもしれない……否、引き際を弁えている分だけエドワードを取り囲んでいる大人達の方がわたしなんかよりもよっぽど利口だ。 (……わたしだって今回はちゃんと幸せになってみせると決めたじゃない)  決して手の届かない相手に何時迄も未練たらしく想いを寄せてみじめな想いをするくらいならば、想いを断ち切った『フリ』をしてでも、平穏を手に入れる。  たとえ一生、自分自身の気持ちに偽りを抱くことになるにしても、わたしは前に進む。  俯いていた視線をゆっくりと上げると、少し離れていたところに居る男の子と眼が合う。純朴そうな柔らかな顔立ちの子は琥珀色の瞳を驚いたように瞬かせる。  恐らくわたしと視線が交わることを想像していなかったのだろう。可愛らしい反応にニコリと微笑めば、彼はおずおずと此方に近付いてくる。その行動に今度はわたしが驚いたのは、タイムリープを何度も繰り返しているとはいえ、第一王子の婚約者になってしまうわたしは勉強しなければいけないことが多く、同年代の子――ましてや異性の子と話す機会が殆どないからだ。  上手く社交辞令が交わせるか心配になって及び腰になりそうなのを必死に堪える。 (何を今更臆病風に吹かれているの。ここで逃げたらきっと結果は『いつも通り』に終わってしまうわ)  それに今日はある程度の爵位を持った子息令嬢達しか集められてはいない。殿下の『友達』と『婚約者』を探す為の人選は厳しく選別されているので、このお茶会に招かれている以上、彼が粗野な相手ではないことは確かだ。  であればこそ、落ち着いて相手を待っていればいい――そう心に決めたというのに、いつの間にか近付いたエドワードがわたし達に声を掛けたのだ。
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