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傭兵団
クシーは村を捨ててライエについて行くことにしたが、新たな問題が発生した。ライエを取り巻く環境は、クシーのいた村とは比べ物にならないほど過酷だったのだ。
彼の言葉通り飯はあったが、年下のクシーに回ってくる頃にはパン一欠片程しかない。それでも毎日戦三昧を耐えれたのは、似た年の仲間基兄弟がいたからだ。
クシーの血の繋がらない、だがかけがえの無い兄弟は本人含め五人いた。
一番年上のドラセナ姉さん、三番目のペンタス弟、四番目のアルメリア妹、五番目のニゲラ弟。二番目がクシーだった。
クシーは招かれた初めの日に、宴会に呼ばれた。他の兄弟が大人たちについでいる最中、ジュンだけは頭領であるライエの傍を離れるなと名を受けた。
「この娘が鳥をその場で五羽も射たのですか」
傭兵の男が尋ねると、ライエは大口を開けて酒で気を良くした笑い声をあげた。
「そうだ。見ものだったぞ」
周りが関心の声と音頭を取る。ジュンは目の前に運ばれた杯にさけをつぐことに集中する。上手い具合に並々と注げたと自分で感心していると、ライエがじっと自分を見下ろしていた。服の隙間から覗く僅かな肌と影に、ライエは魔が差して杯をクシーの方にひっくり返した。
「なにを」
周囲がどよめく中、ライエは平然と杯を置いた。
「粗相だ」
そんなわけもないのだが、頭領が黒と言えば白も黒。周囲が静寂を怖がるように囃し立て、ライエは調子に乗ってクシーを股の間に横たわらせた。酒の匂いの染み付いた衣服に鼻を寄せる。
「私は粗相なんてしていません」
クシーの抗議を面白そうに見定め、ライエは肌を伝う酒を舌で舐めた。布生地に滴る酒の匂い、少し透けた幼い肌、舐め取れば微かな酒気と汗臭さが混じる。
「往生際の悪い子は、こうだ」
そのままベロベロと表面を舐め、クシーが擽ったそうに身をよじると、魚のように見えた。しかし、段々と舌が敏感な箇所を舐め、時折摘むように吸う。
「ライエさん、やっ」
「お父様だ。俺はお前のお父様、あそこで尺している子供と同じさ。だがお前は一つ違う」
音を立てて肌に吸い付く。脇に腹に、そして微かに膨らみ始めた乳房をこっそり舐める。あらぬ所への刺激に、クシーは子犬のように鳴いた。
「なに」
ライエの舌が耳を舐める。
「お前は俺の供物だ。そして、番」
意味が分からずほうけていると、再びライエがジュンの体で戯れる。周囲は調子がいいもんだと呆れていたが、ふとジュンの幼いながらも甘い声に注目していく。
「んっ、もうしませんから」
「はあ、もうこのまますぐにでも俺の床に着くか」
「皆さんが見てます」
じっと興味を隠さず見てくるその遠慮の無さに、クシーは顔を赤くして目蓋を伏せた。その様がなんともその幼さには似合わず、艶やかで、見入ってしまう。それをライエは許さなかった。
「お前ら、何をぼさっとしている。俺が催した宴が気に入らんのか」
すると周囲はゼンマイ仕掛けの機械のように宴が盛り上がる。他の兄弟たちがハラハラと様子を見ているが、どうにも出来ず、宴会が終わるまで続いた。
クシーは無性に悔しくなり、テントに引き入れようとするライエを跳ね除けて言い放った。
「戦争に役立てば良いんでしょう。あんな辱めるようなこと」
「戦争に、ではない。俺に、だ。さあ、こっちに来い」
「嫌です」
クシーは言い放って歩くが、やがて様子を伺っていたドラセナという年上の子供に諭された。
「辛かったでしょう。あんなこと」
クシーは涙が止まらなくなり、彼女の胸で泣いた。母がこんな人だったらな、なんて。そしてクシーはドラセナに連れられ、他の兄弟たちがいる所に案内された。
「父さんにベロベロされてた人だっ」
ペンタスが無遠慮に言うと、アルマリアが気丈にも大声で怒鳴る。
「こらっ」
「なんだよ」
「あんな酷いこと、言わなくても良いじゃない」
「生意気だぞ」
吠える二人をヒヤヒヤしながら見ているのは、ニゲラという最年少の男の子だった。ドラセナが丁寧に説明する。
「ご飯は食べたの」
クシーが頭を横に振ると、宴会での余り物を装った皿を渡してくれた。空腹を思い出しかぶりつこうとした時、ふと他の兄弟の追いすがるような視線に気づく。
「みんなは」
「まだ何も」
「これから食べるの」
「うん。それ。早く順番回してね」
もしや、この皿いっぱいの食べ物を皆で食えというのだろうか。それが一日の配給だと。クシーはよく見ればやつれた兄弟たちを見て、胸が痛んだ。クシーは皿をドラセナに渡して、森の中に入っていく。
「危ないわよっ」
「すぐ戻ってくる」
クシーはずんずんと進んでいき、ペンタスを責めるような目で見つめる。彼は居心地が悪そうだ。
「なんだよ」
「なんだよじゃないわよ。あんたのせいで空気がぶち壊し」
「違うっ」
ペンタスがどつけば、その倍になってアルマリアが反撃する。そんな二人を止めようとしている時、クシーが鳥を仕留めて戻ってきた。皆が食い入るように野鳥の処理を見て、火で炙り痩せている者から順に渡していった。
「クシー姉ちゃんすげえ。鳥を取ってきたの、こんな夜なのに」
「なんなら兎も撮ってこようか」
得意げなクシーを前に、他の兄弟は久方ぶりの肉に興奮していた。
「美味しい」
ドラセナの火で映ったほの暗い顔に、涙が一筋落ちる。クシーはその頬を撫で、涙を拭った。
「腹が減ったら大人に黙って肉を取ってくる。私は死にたくない。これからよろしくね」
兄弟は頷きあい、その日は穏やかに眠れた。しかし、非常な現実が迫ってきていることにまだ誰も気づいていない。
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