佐伯 涼

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佐伯 涼

 佐伯 涼は一見普通の生活をしているように見えたが、親ガチャにはずれ、自分自身を疎み、それでも、ヒルのような母親の面倒を見るために家に縛りつけられていた。  涼は幼いころから綺麗な顔立ちの男の子だった。  母親は、涼が幼い頃に男が原因で夫とは離婚したが、涼がまだ幼かった事と、自分でスナックを経営していたので、費用面でも問題なしとみなされ、親権は母親になっていた。  涼が中学生になった時、母親はスナックから若い女を連れて来て、涼に寝るように言った。良もそれが何をする行為なのかは既に知ってはいたが、母親は、怒ると手が付けられないので、まだ母親に力で敵わなかった涼は言われるがままに、自分の初めてをスナックの若い女にささげた。  女は、涼にもこっそりとお金を握らせ、母親には結構な大金を払っていた。    それからというもの、涼は味を占めた母親に売春をさせられた。相手は母親の経営するスナックの女たちがほとんとだったが、時々はスナックに来る男の客も混ざり始めた。  涼はそれが嫌でたまらなかったが、大人の男の力にはかなわず、後ろの時も初めての客は、涼にも小遣いを握らせたが、母親には結構な大金を払っていた。  涼は、男は嫌だと母親に言ったが、母親は手が付けられない勢いで怒り出した。涼は、自分にそんなに力があると思ってはおらず、母親ともみあいになった時に、思い切り母親を突きとばした。  母親は思いのほか勢いよく後ろに跳んで、運悪く階段から落ちてしまった。  涼は、母親殺害の罪で逮捕された。勿論、未成年だったし、売春の事実も警察は分かっていたのだが、殺人という事で、少年院に入ることになった。  涼の人生の中で、当たりの時期があるとしたら、小学生の頃までだろうか。その中でも心に一番残っているのは小学校3年生の秋だ。  母と二人だけの生活はさみしかったが、まだ、子どもだった涼は、母親に時々折檻されながらも、安寧な日を送れていた。  そんな時、住んでいる町の秋祭りに、隣に住んでいた日向 民という同級生と一緒に遊びに行ったことがある。  他に近所に同級生もいなかったし、まだ男女の仲を気にするほど、二人とも大人ではなかった。  仲良く手をつないで、お小遣いをもらって、満月に照らされた明るい道をお祭りをしている神社の境内まで歩いた。  民は無口だったが、とても嬉しそうだった。りんご飴を買って、綿菓子を買った。お小遣いが少なかったので二人で訳っこして食べた。そして、いつも、男と寝てばかりいる母親にうんざりしていた涼は、民の清らかさが、心がほっこりするような温かい思い出として、涼の心に残っている。  この日の帰り道に涼は、 「民ちゃん、大きくなったら、僕と結婚してください。」  と、告白して、民も 「いいよ。涼君となら結婚しても。」  と、返事を貰っていた。  いつも秋になって満月を見ると民を思い出す。今どこにいるのだろうか。  
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