満月の夜に

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満月の夜に

 民は、男のあまりのDVに、住んでいた家を逃げ出した。  涼は、ようやく刑期を終え、少年院で紹介してくれた職場の近くに借りたアパートからコンビニに買い物に出た。  町の歩道の角に差し掛かった時、ぼんやりと満月を眺めながら歩いていた二人は、結構な勢いでぶつかって、お互い尻もちをついた。 「すみません。」 「ごめんなさい。」  お互いに謝って、相手を見たとき、あの秋祭りの日の思い出がよみがえった。 「涼君?」 「え?誰?」  民は化粧が濃すぎて、おまけにDVの彼に殴られて飛びだしてきたので、誰だか涼にはわからなかった。 「えっと、日向 民だけど、覚えてないっか。」 「え?民ちゃん?驚いたなぁ。全然わからなかったよ。怪我してるじゃない。もしかして、今ぶつかった時?ごめんね。」 「違うよ。男に殴られたの。家飛びだしてきたんだ。」 「お母さんは?」 「私が中学校の時に男と家を出たっきり。その後は、自分で稼いで生きてきた。なんて。もう、涼君みたいに綺麗じゃないから。汚れちゃったから・・」  民は顔立ちの綺麗な量を見て、自分のたった一つの綺麗だった思いでさえも、自分が汚してしまった気がして泣き出した。 「民ちゃん、俺も綺麗なんかじゃないよ。先週、少年院出てきた所だ。いろいろあったし、少年院に入る前に俺も汚れたよ。ゴミみたいに・・・」  涼は、もう、結婚してくれなんて言えない。と、あの時の事を思い出し、目が潤んだ。 「民ちゃん、家を飛びだしたって言ったね。それに、その怪我。手当てしなきゃ。とりあえず、俺のアパート、来る?何もしやしないよ。」 「ありがと。行く場所無いんだ。住むとこ見つけるまでいてもいいかな。」 「あぁ。もし、働きに行くとその男に見つかっちゃうなら、しばらく隠れていればいいよ。」  親がスナックをやっていただけあって、そういったもめごとに涼は慣れていた。 「あぁ。みっともない。こんなところ見られるなんて。助かるけど。新月だったら、こんな顔、見られなくて済んだのに。」 「民ちゃん、新月だったら、俺の事わからなかっただろ?満月が合わせてくれたんだよ。あの秋祭りの時、俺がいったこと覚えてる?」 「んん~、ごめんね。一緒に秋祭りに行ったのは覚えてるんだけど。」 「そうか。じゃ、あの秋祭りの時の事から、これまでの事をゆっくり話そう。幾晩もかけてね。」  涼は、覚えてなかったのか。と、少し残念だったが、やはり自分のしてきたことを全て民に話すまでは結婚の事は内緒にしておこうと思った。  民は、なんだっけ?と思いながらも、泊るところができたので、ほっとしながら、涼と遭遇させてくれた満月に心の中でお礼を言った。
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