日向 民

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日向 民

 日向 民は、親ガチャにはずれ、自分自身をも疎み、川を下るように悪い道へと落ちて行った。  母親は中学校の時に男と家を出たまま帰らなくなっていた。福祉の世話になるのは煩わしくて、背の高かった民は中学校の時にはすでにパパ活をして、あまり高額を望まず、食事や、カラオケにつきあって自分の食費や、ネカフェの宿泊費を稼いでいた。  高校には一応入ったが、何かとお金がかかったのでバイトをはじめ、なんとか卒業するころには、すでにガールズバーに勤め、男と住んでいた。  男は普段は優しいのだが、酒を呑んでいる時に地雷を踏むと手が付けられなくなる。これまた父親と同じはずれの男だった。  民の人生の中で、当たりの時期があるとしたら、小学校3年生の秋だろうか。まだ、父親が亡くなったばかりで、母も荒れる前だった。  母と二人だけの生活はさみしかったが、今つきあっている男と同じDVだった父親が、外のチンピラと揉めて殺されてからは、安寧な日を送れていた。  そんな時、住んでいる町の秋祭りに、隣に住んでいた佐伯 涼という同級生と一緒に遊びに行ったことがある。  他に近所に同級生もいなかったし、まだ男女の仲を気にするほど、二人とも大人ではなかった。  仲良く手をつないで、お小遣いをもらって、満月に照らされた明るい道をお祭りをしている神社の境内まで歩いた。  何を話していたのか、何を買ったのか、そんな事など覚えてはいないが、心がほっこりするような温かい思い出として、民の心に残っている。  いつも秋になって満月を見ると涼を思い出す。    
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