Rule1. DO NOT TALK TO ME

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「いらっしゃいませ」 「どーも」 「いつものでいいですか?」 「うん」 仕事終わりにやってきたバー。 なんだかんだでここに通っていると、"いつもの" が通じる常連枠となってしまった。 ダークブラウンで設られた店内は程よく落とされた照明と、この空間によく馴染むシャンデリアが私好みでとても落ち着く癒しの場所だ。 今日の撮影も疲れたなあと思いながら携帯をいじって待っていたら、"いつもの"マティーニが静かに差し出された。 「どうぞ」 にっこり笑ったバイトくんに小さく頭を下げ、華奢な脚に手をかけて一口。 想像を裏切らない"いつもの"味に、ようやく体の力が抜けた音がする。 携帯を手元に置いて、カウンターを挟んだ斜め向かいの彼に、ねえ、と声をかけた。 「今日、マスターは?」 「お休みです」 「ふーん」 私の様子をにこにこしながら見ている彼はマスターのお気に入りだ。 名前は…何だったっけ。忘れた。2年ぐらい前に新入りだと紹介された気がする。あれ2年前だっけ。 随分若く見えるけど学生かな、まあどうでもいい。 マスターとお喋りしたい気分だったけどいないなら長居しなくてもいいか。 しかしすぐ家に帰る気分でもなくて、また携帯をいじりながらぼーっとする。 右上に赤丸がついているメッセージアプリを確認してみたら、返事を溜めている一番上にはマネージャーの名前があった。 明日のスケジュールが書かれているそれに適当に返事をして画面を伏せ、グラスの中に沈んでいるオリーブに手をつけようとしたら、着信を知らせるために携帯が震えた。 「もしもーし……え、今から?いいよ、待ってて」 短く通話を済ませ、グラスの残りを流し込み一息つく。 ごちそーさま、とバイトくんに声をかけてお札を置く。 「おねーさん、また、ですか?」 「好きなものは仕方ない。じゃ、マスターによろしく」 「明日も待ってます」 「気が向いたらね」 彼と目も合わさずに、背の高い椅子から降りて扉に手をかける。チリンと上品な音を立ててベルが鳴った。
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