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来栖くんに抱きしめられながら、そのうち涙がおさまって、いつの間にかふたりとも眠ってしまったようだ。
夕方になり、部屋が薄暗くなった頃、わたしが先に目が覚めた。
穏やかな来栖くんの寝顔を見ながら、これ以上ない幸せを感じていた。
本当はもう少しこうしていたいけど……。そろそろ夕ごはんの支度をしないと。
だけど来栖くんの腕のなかから抜け出そうとしたら強い力で引っ張られた。
「起きてるの?」
そっと声をかけてみたけれど、来栖くんは相変わらず静かな寝息を立てている。
無意識?
「かわいい」
しょうがないなあ。もう少しだけ一緒に寝てあげるか。
わたしは再び目を閉じる。
好きなひとの腕のなかでゆるやかに時が過ぎていくのを感じていた。
この温もりがわたしを癒やしてくれる。
たまらなくなって来栖くんにぎゅっと抱きつくと、くすりと笑う声が聞こえた。
「やっぱり起きてたんだ?」
「いま起きた」
目が合うだけで胸が高鳴る。
「さくらに甘えられるの、うれしい。もっと甘えて」
そうささやいて来栖くんもわたしを抱きしめてきた。
何度もくちびるを重ね、見つめ合って、また重ねた。「止まらないね」とふたりで笑い合い、やがて結ばれ、気がつくと部屋は暗闇になっていた。
今日はとびきり濃厚で贅沢な休日だ。明日はお互いに仕事がある。それでも離れられなくて、きっともうしばらく甘い時間が続きそうな予感……。
[完]
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