248人が本棚に入れています
本棚に追加
■01■
三月下旬。
都内某所にある工場。ここで働きはじめて三か月が経とうとしていた。慣れないながらも、それなりにコツがつかめつつあったのに。
わたしは、いままさしく『派遣切り』を言い渡されていた。
「材料の調達が困難な状況で、生産規模を縮小することになったんだよ」
「それで人員削減を……」
「ほんとに悪いね。派遣会社には人事部のほうから説明してもらったんだけど直接謝りたくてね」
工場長が申し訳なさそうに言うけれど。
「だからって今週いっぱいで契約を打ち切りだなんて」
今週いっぱいといってもあと三日しかない。急に言われても困る。
生活費はもちろん、家賃だって払わないといけない。ほかにもスマホの料金や生命保険、化粧品や美容院代など。あー、自転車のタイヤもパンクしてるんだった。
お金が足りなくなったらどうしよう。
「喜多見さんならすぐにいい働き口が見つかるよ」
工場長はさっきとは打って変わってへらへらと楽観的に言う。
直接謝りたいと申し訳なさそうに言っていたのに、さっきのはお芝居か?
この人はまるで他人事だ。「すぐに見つかる」だと!? このご時世、三十路の女が希望する仕事に簡単に就けるわけないでしょう!
最初のコメントを投稿しよう!