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「送っていきます。家の前まで……だと流石に抵抗があると思うので、せめて最寄りのコンビニくらいまで」 「いえ、一人で帰れます。ここからだったらあまり遠くないですから……」 「そういう問題ではありません。ここで俺が貴方を見送った後に何も起きないという保証はないでしょう。不本意でしょうが、ここは教師としての俺の顔を立ててください。お願いします」  教師であれば、ここで見送るという選択肢は出ない。もちろん、これ以上余計な場所へ出歩かせないという牽制の意味もあった。  俺は至って大真面目だが、古森さんは声を立てずに口に手を添えた。控えめにだが笑っている。 「どうしました?」 「ごめんなさい……前に、父の職場の人と外でばったり会った時も、先生と全く同じことを言われたので。それじゃあ、お願いします」  素直な少女は丁寧に頭を下げた。俺もつられて軽く頭を下げて、どちらからともなく橋の上を歩き出す。  ふと橋の下に目を向ける。見渡せる景色は、レストランだのショッピングモールだのホテルだのが密集する、夜でも明るい広い街。カップルや親子連れが少なくない。等間隔に街灯が並ぶだけの橋に比べれば、あまりに賑やかだ。 「先生は、こんな時間にどこまで出掛けていたんですか? 車じゃないなら仕事帰りではないですよね」 「……清石公園まで行っていました。俺の家から歩いて行けない距離ではないので」 「そうなんですね。あの公園、春には桜が見頃だって聞きました。今の時季だと紅葉が見頃なんですか?」 「まあ……そうですね。綺麗ですよ」 「じゃあ私も今度見に行ってみようかな」 「行くなら休日の明るい時間帯にしてくださいね」  長い橋を渡り切る。そよぐ風が、心地よく肌を撫でた。  ほんの一瞬、心地よい香りが横切る。
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