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「……ごめんなさい。嘘です」 「嘘?」 「はい。本当は古森さんを待っていました。これを渡したくて」  カフェオレを手すりに置いた俺は、紙袋から取り出した紙カップを古森さんに渡す。弱くだが、まだ辛うじて湯気が立っている。間に合った。 「ホットのアップルティーです。コーヒーは苦手だと言っていたので紅茶なら飲めるかと思って。嫌いじゃなければどうぞ」 「えっ……あ、ありがとうございますっ」  丁寧に両手で受け取る古森さんは、目敏くカップのロゴに注目する。 「これ、高級なお店のっ……本当にいいんですか? こんな立派なものご馳走になっちゃってっ……」 「ええ。前にいただいたカフェオレとスイーツのお礼です。学校でお礼をするとややこしくなるのは学びましたし、かと言ってわざわざ呼び出すのも忍びないので、この場所で渡すのが適切かなと。結果的に待ち伏せする形になってしまってすみません」 「そんなこと気にしません。正直に言うと……私も、冴木先生に会えないかなって思ってここに来たから」  同世代であれば勘違いしてしまいそうなことをさらりと溢した古森さんの手が、カップの表面を真横になぞる 「ここのお店の紅茶、飲んでみたいなってずっと思ってたんです。すごく嬉しい……ありがとうございます」  熱さに躊躇わず紅茶を啜る音を聞きながら、俺はストーカー扱いされなかったことに胸の内で安堵した。
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