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腹が減ったというのは事実だったらしく、俺がフィナンシェを食べ終わた時、古森さんはホワイトチョコレートがけのバウムクーヘンを齧り始めていた。一口を味わって飲み込んだと思ったら、あどけなく輝く瞳を俺に向けてきた。
「これ美味しいですっ! 大袈裟かもしれないけど、私が今まで食べたバウムクーヘンの中で、一番っ!」
「ふっ……本当に大袈裟ですね」
学校では見たことのないそのはしゃぎようが、俺の顔を笑わせる。子どもが子どもらしい顔をするだけで、こんなにも心を安らげてくれるなんて。
「口に合うものがあって何よりです。選んだ甲斐がありました。ゆっくり味わって食べてください」
「冴木先生、スイーツ選びのセンスがありますね。前にいただいたスコーンもすごく美味しかったです。蛍も気に入ったみたいで……ああ、そうだ」
一度アップルティーを飲んでから、古森さんは再び口を開く。
「今週に入ってからかな……授業中に教科書を開くことさえ面倒がっていたあの蛍が、真面目に勉強するようになったんですよ。ちゃんとノートも取ってるみたいだし、私にもよく質問してくるし」
「天海君なら、教科書を持って職員室にもよく来ていますよ。授業態度がよくなったと、先生方も感心しています」
「……ズルいなぁ。真面目じゃなかった子は、少し態度を改めるだけで感心してもらえるなんて。授業中に前を向くのも、ノートを取るのも、私だって当たり前にやってきたのに」
月に重なる薄い雲のよう。拗ねたような声に、ごく薄い翳りがかかる。
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