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 手すりに落とした手に、柔らかい感触が被さる。冷たいけれど嫌な温度ではない。古森さんの手が、俺の手に重なっていた。  また不安定に揺れ始めた瞳が、それでも真っ直ぐに、俺を見上げる。 「……ごめんなさい。でも……先生が、何だかすごく、苦しそうに見えて……」 「……苦しいです。もう、ずっと……」 「何か……辛いことでもあったんですか……?」 「ずっと……痛みが引かないんです。いつまで経っても、何をしても……」 「何が、あったんですか? 私が聞いてもいい話なら、何でも聞きます。どんな話でも、ちゃんと最後まで聞きますからっ……そんな、壊れてしまいそうな表情(かお)、しないでくださいっ……」  懸命に寄り添おうとしてくれる()が、眩しい。自分こそ壊れそうな表情(かお)をしているくせに。ああ、そうか。それは俺がこういう表情(かお)をしているせいなのか。  目を合わせていられなくなって、俺は項垂れる。  まだ間に合う。こんなことを教師が生徒に吐き出してはいけない。強がらなければ。  だけど、抑えられない。聞いてほしい。他の誰でもない、この人に。 「およそ一年前……俺が受け持っていたクラスの生徒が一人、清石公園で亡くなったんです。学校から帰る途中に、公園の中ですれ違った男性に刺されて」  他の誰も通らなくなった大きな橋の上を、非情な風が駆ける。  それでも重ねられたまま離れない手が尊くて、いよいよ止まらなくなった。
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