7人が本棚に入れています
本棚に追加
情けなく、俺の身体は震えてしまう。悲しむ資格さえないのに。
「たとえ気持ちには応えられなくても、俺はあの日、あの子に向き合わなければならなかったのにっ……何も、してあげられなかったっ……」
「そんなのっ……先生の、せいじゃ、ないっ……」
かけられた言葉も、俺の手に強く被さる手も、震えていることに気付く。
顔を横に向けると、古森さんが泣いていた。
「え……何で、泣いてるんですか……」
俺はたじろいでしまう。この子、泣くのか。場違いにそう驚いた。
古森さんも、どうして自分が泣いているのかわからないようだった。混乱したように首を左右に振って、呼吸さえもままならず、それでもぼろぼろと泣き続ける。しっかりと俺の手を掴んだまま。
そんなにデリケートな部分を抉ってしまったのかと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「すみません。こんな愉快ではない話、聞かせるべきではありませんでしたね。忘れてください」
「違いますっ……私の方こそ、こんないきなり、ごめんなさい……困ったわけじゃ、全然なくて……」
何度も鼻を鳴らし、一層激しく首を動かしながら、懸命に言葉を繋げてくれる古森さん。
「……悔しいな。私がもう少し早く生まれていたら、先生にいつでも……何でも、弱音を吐いてもらえる友達になれたかもしれないのに……」
傷みのない長い髪が、夜風に高く靡く。ムスクに染まることなく鼻まで届く、マグノリア。
最初のコメントを投稿しよう!