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飽きる気配もなく、古森さんはまだ泣いていた。自分が傷ついたわけでもないのに。
こみ上げてきた目の奥の熱を留めるために、俺は目を閉じた。
「古森さん……一つだけお願いがあります」
「はい……?」
「……このまま……しばらく、手を動かさないでいてもらえますか」
「……はい」
差し伸べられた手に甘えて、隣から流れてくるマグノリアの香りを味わう。肺を満たす、まっさらで柔らかな清潔。意思に反して、震えあがるほど癒されてしまう。
目蓋を上げ、俺は天を仰いだ。じわりと潤う眼球に風が染みる。
「古森さんの言う通りですね」
「え?」
「今日の空は……綺麗です。とても」
遠いのに、小さいのに、凄まじく強い光。さっき見た時以上に星が輝いている。
「よかった……冴木先生と、こんなに綺麗な空が見られて」
瞳を湿らせたまま古森さんが笑った。
眩しく感じた星空さえ、その一瞬で霞む。
ああ。あの頃の鈴原君もこんな気持ちだったのか。
俺の中に、新たな影が芽を生やす。どうしようもなく願ってしまった。隣にいてくれるこの子が、生徒じゃなければよかったのに、と。
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