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 オムライスの皿を自分の前に戻した雨宮先生は、食事よりもスマホの操作に夢中な橋本先生を、苦笑いしながら見守る。 「今の若い子は写真撮るのが好きだよね。俺なんかは温かいうちに食べちゃいたい派だけど」 「だってちゃんと残しておきたいじゃないですか! 友達との会話の種にもなりますし。雨宮先生の奥さんは、こういう時スマホに収めたりしないんですか?」 「瑠華はせっかちだからなぁ。家でも俺より先に箸を持つし。そういう食い意地の張ったところも可愛いんだけど」 「もう! 今日は雨宮先生の惚気を聞くために集まったんじゃないんですよっ」  料理を味わう傍ら、和やかなやり取りが行き交う。そこに重い緊張感はなくて、俺は黙って肩を下ろした。  ここ数日で、橋本先生は雨宮先生とごく自然に会話ができるようになっていた。今日の同席を拒まなれかったのも、行き場のなかった想いを良い形に昇華できたためだろう。相談をされた数日後に話を聞く機会があったが、告白してくれたという彼と上手くいっているらしい。  自然な声色で奥さんの名前を出した雨宮先生も、無事に仲直りできたようだ。  食べている間はリラックスしたくて、各々取り留めのない会話ばかりを続ける。程よく賑やかな空間にいると、家で一人で食べている時よりずっと、料理が美味しく感じられた。 「そろそろ冴木先生の恋愛相談に話を戻そうか」  食後のドリンクとデザートが運ばれてきたタイミングで、雨宮先生が当初の目的へと話題の舵を切った。うんうん、と橋本先生も賛同する。
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