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 改めて注目されるとどう切り出せばいいのか迷ってしまうが、浮かんでくるのは結局最初と同じ文言。 「先ほどお話した通りです。好きになってはいけない人を好きになってしまった場合、どうすればいいのでしょうか」 「冴木先生はどうしたいの?」  苦みの深い香りを楽しみながら、雨宮先生がコーヒーを啜る。 「好きになっちゃいけないってわかってても実らせたいのか、それとも諦めるための手段を求めてるのか。冴木先生はどうしたいと思ってるの?」 「俺は、できれば早く、この気持ちを絶ちたいと思っています。叶う見込みはありませんし、本人に打ち明けたところで困らせてしまうだけなので」 「一体どんな難しい人を好きになっちゃったんですか?」  ちまちまとショートケーキを口に運ぶ橋本先生が、眉間に皺を寄せた。 「その人は結婚してるわけじゃないってさっき言ってましたよね? それでも冴木先生のことを好きになってくれる可能性はないんですか?」 「ありませんね。その人にとって、俺はそういう対象ではないので」 「見込みないって冴木先生が思い込んでるだけかもしれませんよ? 伝えてみたら案外上手くいくかも」 「いきません。そんなことはあり得ないんです。そもそもこんな気持ちを持つこと自体、倫理的に許されないことなので……」  思わずテーブルの上で手の甲に額をあてる。  自分の口から飛び出た言葉が突き刺さる。けれど、これが現実だ。
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