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「えっ……それもしかしてっ……!」
「……そっか。そういうことか……」
どんな立場の相手なのか、流石に伝わったのだろう。二つの複雑そうな声色が返される。
「それはまた……一番難しい相手だね」
「そうなんです。こうなるつもりじゃなかったのに……弱い部分を受け止めてくれて、俺が背負っていたものを、優しく溶かしていってくれて……気付けば望んでしまっていたんです。あの子が生徒じゃなければよかったのにと……」
手に重ねられた小さな感触が、今でも思い起こされる。
柔らかなマグノリアに包まれた夜。時間が巻き戻せるのなら、俺は何度でもあの夜に帰る。
「そう……きっと感受性が豊かな子なんだね。でもさ、早ければあと半年……遅くてもあと三年経てば、冴木先生のその悩みは解消されるよね。その子の肩書はなくなるわけだから」
「三年……長いですね」
「まあね。でも期限付きの悩みなんだって考えたらちょっとは楽にならない? それまでには冴木先生の気持ちも別の方向に傾いてるかもしれないし。今感じてる葛藤や苦しみは、何も一生続くわけじゃない」
期限付きの悩み。一生続くわけではない。雨宮先生が示してくれた出口に、行き場を見失っていた心が傾く。
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