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 空になった皿にフォークを落とした橋本先生も、「そうですよ」と首を縦に動かした。 「それに、今ある気持ち、無理に消そうとしちゃうと余計に辛いですよ? 私もそういうの頑張ろうとしてた時期がありましたけど……逆効果でしたもん。却って意識しちゃいますから」 「本人に伝えるつもりはないんだよね? 冴木先生の中に置いておくくらいなら許される感情(もの)だと思うよ。教師も人間だからね。どんな相手に惹かれるかなんて完全には予測できないし、好きになってしまったこと自体は悪いことでもなんでもない」  俺を受け止めてくれる眼差しは、驚くほど澄んでいた。そこに非難の色はない。  今すぐ処理しなければと思っていた。生徒に疚しい感情を持つなんて、あってはならないことだと。  でも、そうか。抱えているだけなら許されるのか。あと二年と半年が経った頃には、この悩みも悩みではなくなる。一人で考え続けていても、きっとこの結論には至れなかった。 「あ。もちろん、贔屓とかセクハラとかは謹んでくださいよ? 私、冴木先生が校内で不正や犯罪に手を染める姿なんて見たくないです。生徒達が教師不信になっちゃっても困るし」 「当たり前でしょう。一社会人として、それくらいの理性は持ち合わせています」  せっかく胸を温めていた感謝が一瞬引っ込んでしまう。  だが橋本先生の忠告は最もだ。最後に会った夜、それらしいことをいくつかしてしまった。あの時点では下心がなかったとはいえ、本人が許してくれたとはいえ、過ぎた言動は慎まなければならない。
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