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「もし、話しづらければ……」 「いや、構わない。この瞳の色は父から受け継いだものだ。母はアーレスト人だが、父は西の大陸の中でも遠く、凍える国の出身だったようだ。俺は、混血ということになる」  聞こうとしたのは極個人的な内容だ。断られても仕方がないと思っていたが、ポリメロは特に迷う様子も無く話をしてくれた。 「ようだ、というのは……」 「俺の母は他国からの商人を相手にする、比較的大きな宿屋の娘だった。子から見ても奔放な人だった。皆まで言わずとも分かるな? 俺自身、父親の顔も名前も知らない」 「……そうだったんですね」 「ああ。俺は四人兄妹だが、全員が種違いだ。ただ、このような見た目は俺だけだった。  読み書きを覚えてからは、父親が何処のどういった者なのかを知りたくて書物や文献を読み漁った。そこで得た文化や習慣の知識から、頭の中で空想の父親像を作り上げて……こうして話すと、我ながら虚しい一人遊びだな」 「そんなこと思いません」  以前から他国のことに詳しいとは思っていたが、その裏にこんな事情があったとは思ってもみなかった。  いつも冷静で、何でも淡々と受け止めそうなこの人が、自分が何者なのかという答えを求めて過去に苦しんでいた。  出自への疑問、そしてそれに纏わる苦悩という共通項に、一層心は彼に引き寄せられる。  ふと、ポリメロが何か思案するように黙り込んでから、意を決したようにこちらを見た。 「——実は、以前に書物を読んでいる中で、君の容姿に近い特徴を持った民の記述に出会ったことがある。  ただ、髪は純白で、肌は君よりも日に焼けたような色をしているそうだ。君の容姿は丁度アーレストとその民族の真ん中にある。……あくまで推測だが、君も混血なのではないか?」 「……! その民族の名前はなんというのですか⁈」  出し抜けにもたらされた情報に思わず前のめりになった。  正体不明だと思っていた自分に、名前のついた根っこが存在するかもしれない。
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