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「見て。あの人全然動かないよ。もしかしたら居眠りしてるんじゃない? 前に回ってみようよ」
「もういいから……!」
思わずロットの腕を掴む手に力を込めた、その時だった。
「年長者の言うことには耳を傾けるべきだぞ」
凛として、隙の無い響きを持った声が背後に響いた。
不意打ちの出来事に身体を竦めながらも恐る恐る振り返ると、そこには腕を組み、木に凭れかかるようにしてこちらを見る青年の姿があった。
斜めに流された前髪から覗く、青い瞳と視線がぶつかる。
それは雲の無い夜を照らす月の光を連想させるような、静かな青だった。
均整のとれた体躯は旅装束に包まれているが、流浪の者といった奔放さは無く、ぴしりと整い落ち着いた雰囲気を纏っている。
年齢は二十代半ばといったところだろうか。癖のない黒髪は襟足にかかるくらいの長さに切られているので、少なくとも成人しているのは間違いない。
この国において、肩より短い髪は成人男性の証だ。断髪は十八歳の誕生日を迎えると同時に行われ、そこで初めて大人の男と認められる。
一方、長い髪は子供の印であり、現にリリシスもロットも後ろで一つに括られている髪は肩甲骨より長い。
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