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彼は、少し考え込むような表情をしていた。
怜悧さの漂う思案顔を眺めていると、今更だが彼の顔の造作がとても整っていることに気付く。
「……すまないが、専門外だ。残念ながら色恋には縁がない」
ただ事実を述べているだけといった様子の答えを、リリシスは意外に思った。
娘達が放っておかなそうな容貌をして、色恋に縁がないというのは何か理由でもあるのか。
「ふーん? つまんないの。ねぇ、じゃあ途中で出て来たキーナって楽器はどんなもの?」
「それは、西の大陸から伝わった笛で——」
ロットは青年が答えられないならもういいと思ったのか、物語の中で気になった事柄をあれこれ聞き始めた。
そこから派生した様々な疑問にも、彼は丁寧に答えてくれる。
青年の知識は広かった。
地理や文化、アーレストの歴史、他国の歌や踊りから、果ては病気の治療の話まで。多彩な話題に、ロットだけでなく横で聞いていたリリシスまでもがうっかり夢中になっていた程だった。
その知識量に舌を巻いたロットが貴方は何者かと訊ねると、青年は『ポリメロ』と名乗った。
「ポリメロは何をしにここに来たんだ?」
ロットが無邪気に問い掛ける。
彼虚ではないかと噂される人物に対しての核心をつくような質問にヒヤリとする。しかしポリメロは特に表情も変えず答えた。
「ずっと王都で働いていたが、訳あって故郷へ戻ることになった。今はその途中だ。折角なので、その土地土地のものを見ながら旅をしている」
「この村に何か見るものなんてある?」
「もうすぐ太陽の祝祭だろう。あれは地域によって特色があるからな。この村での祭を見物していきたい。終わったらまた旅に戻るつもりだ」
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