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「あら。お友達の家に遊びに行くの? くれぐれも日暮れまでには帰っていらっしゃいね。災厄がヒトの形をして——」 「はいはい。決っして応えません! リリィ、この台詞、オレが生まれてから一体何回言われてると思う? 何千って単位だよ。お婆ちゃんは心配し過ぎなんだ」  意志の強そうなしっかりとした眉の根を寄せ、幼い顔が真剣に訴えてくる。  顔馴染みである村の子供とその祖母の、いつものやり取り。薬局のカウンター越し、リリシスはそんな孫を想う気持ちと幼い反抗心のぶつかり合いを微笑ましい気持ちで眺めていた。 「東の森に見掛けない顔の人がいるって話があるから、余計に心配なんだよ。ミュケルさんはロットのことが大事なんだ。だから気に掛かるんだよ」 「それは分かってるけどさぁ……先月だって、皆んなが怪しいって騒いだ旅の人、結局なんでもなかったじゃないか。しかもおばあちゃんなんて、その人の怪我の手当てまでしてあげてたし」 「怪我した経緯を考えれば、関わっても大丈夫だって判断出来たんだよ。橋から落ちたウィントさん家の末っ子をあの人が助けてくれたの、ロットだって知っているだろう?」 「そうだけどさぁ……」  小さな足が納得できない様子で床を蹴る。ミュケルは前に出て、不貞腐れた顔のロットに向き合った。
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