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「そう。ああ……だったら、少し待っててもらえるかしら?」  そう言うと、彼女は早足で階段を降りて庭へ行き、可憐な花束を作ってきてくれた。  受け取るリリシスの手を、皺の刻まれた柔らかな手が包んでくれる。  眉を寄せながら微笑む瞳は、薄っすらと揺れながら光っていた。  パドラが彼虚であったこと、そして彼と共に暮らしていた自分の存在を、ラビドの村人がどう思うのか。  正直、考えるのが怖かった。けれども——。  森への道を歩きながら、リリシスは過去の自分についてずっと考えていた。 「——ラグナールさん」 「なんだ?」 「僕は……自分のことを、大切な人から見放されがちな寂しい人間だと思っていた時期がありました。今は、そんなことを考えていた自分を馬鹿馬鹿しくさえ思います」  右手の花束、左手に繋がるラグナールの大きな手。パドラと暮らした十年。そして母達が残してくれたものは、今も自分を守ってくれている。  ラグナールは、リリシスの言葉に明確な言葉ではなく目で相槌を打った。  彼がどう思ったのかは分からなかったが、肩をぽんぽんと叩く手から伝わる柔らかさがリリシスを不安にはさせなかった。 「見ろ」  行手に延々と続いていた木々が途切れている。
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