11

9/17

36人が本棚に入れています
本棚に追加
/215ページ
 雨上がりのような、湿った土の匂いが鼻先に届く。  土の匂いは、沢山の生命を育む力を秘めた生気溢れる匂いだ。 「このラナは、きっとパドラが呼び寄せたんでしょう。太陽に憧れていたパドラには、眠りにつく場としてこれ以上ない良い場所になりました。パドラが最期に放った光が、この一面のラナを花開かせたのかもしれない」  抉れた土と花畑の境を撫で、ミュケルから貰った花束を穴の中へとそっと寝かせた。  来年も、再来年も、そのずっと先も、この場所にラナが咲き続けるといい。  そんな願いを込めて、リリシスは静かに祈った。  隣に、ラグナールも膝をつく。  目を瞑り、何かを祈っているようだ。  瞼が上がるのを待って、リリシスは感謝の気持ちを伝えた。 「ラグナールさん。一緒に来てくれて、ありがとうございました。きっと僕一人では、来る勇気が持てなかったでしょう。今こうしてこの場所を訪れたことで、いくらか気持ちに区切りをつけられた気がします」 「そうであれば、良かった」  そう言って目元を和ませる彼の表情に、リリシスは涙が滲みそうになるのを堪えた。    決して悲しいからではない。直ぐ隣に誰かがいてくれる嬉しさ、愛しさ、安堵——  そういった感情が、涙の形を借りて溢れそうになっていた。  ラグナールが、リリシスの方に向き直る。
/215ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加