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「ここに来る途中、君は過去の自分を馬鹿馬鹿しく思うと言っていたな」  力強い両手が、リリシスの肩に置かれた。  目の前の青い瞳には、自分だけが一杯に映っている。 「——そう思えるのは今、君が生きているからこそだ」  直接吹き込まれる真っ直ぐなその言葉が、リリシスの胸の真ん中に、とすんと深く突き刺さる。  途端に、花畑を満たすラナの香りや、明るい日差しに透けるような緑の瑞々しさ、遠くで鳴いているベルの声、そういった自分を取り囲むあれこれが鮮明な輝きを増し、産毛が逆立つような感覚に背が震えた。 「……君がパドラと共に消えるかもしれないと思った時、感じた焦りと絶望はとても言葉では言い表せない。だが、君が今、こうして目の前に居てくれる。これは、間違いなく俺の幸いだ。リリシス。君が生きていてくれて、本当に良かった」  頰を指の背で撫でられ、眦に滲む涙を掬われる。  リリシスが反射的に目を瞑ると、唇にそっと触れたものがあった。    驚いて目を開けると、至近距離でラグナールと目が合う。
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