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「ラグナールさん。僕は王都に行きたいです。連れて行って、くれま——わっ」
言い終わるよりも先に、リリシスはラグナールから熱く抱擁されていた。
直ぐ近くにある彼の笑顔が、柔らかく輝いている。
「勿論だ、リリシス。君がその手で望む将来を掴むまで……それまでの少しの間、君の未来を俺に預けてくれるか?」
「……! はい!」
「それから、もう一つ。俺に、君の心も預けてくれないか。こっちは少しの間じゃない。これから先も、ずっと、長く」
自然と、湧き上がる笑みと共に涙が溢れた。
ラグナールの唇がその光る粒を受け止める。
「君の視界が片目で足りない時には、俺に手伝わせて欲しい。君の片目に俺の両目が合わされば、きっと世界は今までよりも広く見える。そうすることで初めて見えるものもあるだろう」
ラグナールは微笑む。
「そしてそれはきっと、俺も同じだ」
額を合わせ、鼻先がくっつきそうな距離で互いの瞳を見つめ合う。
「お願いします」と囁くと、握っていた手が優しく解かれ、指と指を絡めるように繋ぎ直された。胸に甘い幸福が満ち満ちる。
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