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 災厄がヒトの形をしてやってきた時、その呼び掛けに決して応えてはいけない——。  この国、アーレストにおいて、昔から繰り返し繰り返し言われ続けてきた文言だ。  ヒトの形をした災厄。それはこの地に暮らす者、足を踏み入れる者にとっては、常に頭の片隅に置いておかねばならない存在である。  人間にとって魔物ともいえるその種族は、建国の際の文書にも既に記され、常に人々の恐怖の対象であり続けた。  国に定められた正式名称は『彼虚』——しかし、直接その名を口に出すことを嫌がり『彼方のヒト』と呼ぶ者も多くいる。  彼虚が何故それ程恐れられてきたのかと言えば、彼らの生きる糧が『命ある者の生気』であるという点に尽きる。その手にかかれば人間の一人や二人、いとも容易く命を奪われてしまうのだ。  更に厄介なことに、彼らの姿は我々人間とほとんど変わりがないという。  故に、田舎の村のような閉鎖的な場所においては、突然やって来る見慣れぬ他所者に対し排他的にならざるを得ない部分があった。
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