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 とはいえ人間側もただ恐怖に身をすくめ、動けずにいた訳では無い。  国は各地で専門部隊による積極的な討伐を進めた。  とりたてて対策に熱心だった先王の時代を経て、彼虚はその数を大きく減らし、今では絶滅寸前に近い存在とされている。現に、リリシス達の住むラビドの村が属する地域でも、ここ二十年近くは彼虚が出現したという噂すらなかった。  ただ、そんな平和な状況も、子供達にとっては彼虚をどこか御伽噺めいた遠い存在にさせてしまっているようでもあった。  今、リリシスの目の前で隠し切れない好奇心に瞳を輝かせているロットは今年で九歳。  まさに彼虚を知らない世代なのだった。 「ロット、知らないことや見たことがないものに好奇心が湧くのは分かるよ。だけど興味本位で見に行くのはやめるべきだ。万が一ってこともある」 「それを言ったら、リリィだって今年で十八歳じゃない。彼虚を知らないのは一緒だろう? 興味無いの?」 「……僕は、以前に住んでいたところで彼虚の騒ぎがあったんだ。何も知らない訳じゃない」
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