ふたつの約束

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ふたつの約束

 マリアを虜囚の身から解放するため、計画を実行するその日まで、残すところ一年になった。その一年後、現在の、人間の体で生きている僕の命は終わる。  限られた歳月と行動範囲を強いられている情勢下で、彼らと再会出来たのはまさに奇跡というか、運命的だったというか。運命というものが「絶対に変わらない、仕組まれた予定調和」じみているとつくづく実感させられた。  虜囚のマリアが関係させられた少女から彼らの子供達が生まれて、その内のひとりが無の神(ソウ)だった。他の誰より先にソウと接触を果たせた僕は、彼との「約束」を取り付けることが出来たから。  世界を「何もない」、苦しみもなければ幸せもない、元々あった姿に戻す。彼はそのために在ると言っていたけれど、僕はそんなこと望まない。この後世界から消えていく僕が、彼にこの望みを伝えられるのは、今しかない。 「他の誰に忘れられても構わないけれど、どうか、君にだけは覚えていて欲しい。僕は終わりなんて望まない。彼女が笑って、幸せに生きていけるこの世界を残したい。続けていきたい……それが僕の望みなんだよ」  当たり前の話だけど、ソウはあの時出会った幼子の姿よりもっと幼い。赤ん坊だ。あの時と同じように抱き上げてみてもあまりにも質量、重量共に軽すぎて、頼りなく思える。本来だったら、僕が言葉を、願いを投げたところで赤ん坊には届くはずがない。だけど、彼はただの赤ん坊ではなく「約束のために存在する神」なんだ。僕との「約束」が届いてくれると信じたかった。 「ソウジュ様……本当に、これでいいんですか? ソウジュ様には、その……愛している(ひと)がいるのに、自分を犠牲にするなんて……」  もちろん、マリア様を見捨てていいわけじゃなくて、他に手段はないのか。僕達の背中側に控えて、第三者の邪魔が入らないよう見守っていてくれた彼……小唄(コウタ)が、遠慮がちに進言する。
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