選ぶ未来

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 それから長い時間をかけて考え抜いて、僕はこの星に生命を誕生させることをリリアにゆるした。 「ふふふ~、ありがとうソウジュ。わたしの望みを叶えさせてくれて。後悔させないわ、とは言ってあげられないけどね。わたしの作る生き物達の描く、とびっきりの幸福と苦難を皆に楽しませてあげる」 「幸福はいいけど、苦難って楽しんでいいものではないんじゃないのかな」  いいよ、と応えたそばからそれを後悔したくなりそうなことを言われて、もはや真剣に悩むよりは苦笑してしまう。 「この世の全ては表裏一体よ。いくらわたしが創造の神でも、幸福だけを描く生き物を作るなんて不可能なの。表が幸福なら、裏は苦難。そも、苦難を知らない者は幸福のありがたさなんて見えないでしょう?」 「なるほどね。僕もつくづく、君達と出会ってからそれを感じさせられてきたから。理解出来るようになってきた気がするよ」  我が身に当てはめた危機感という側面があったとしても、エルは誰よりも僕の体を気遣って忠告してくれた。そんな彼女に僕の結論を伝えに行く時は、きっと叱責されるのだろうと思っていたのだけれど。 「わたくしに出来る限りの忠言はいたしましたので、お決めになった以上は頑張ってくださいませ。わたくしはこれまでと変わらず、自由にふるまわせていただきますので」  結論が出た事柄に対して執着はしない性格らしく、思ったよりはあっさりとした調子で、彼女は空へ舞い戻った。 「仕事が爆増する……嫌すぎる……。仕方あるまい。務めを面倒だと思うこの心を切り離すことにしたよ」  特別な神器を用いて自分の心の不要な部分を切り捨てたミリーは、今までの怠惰が嘘のように真面目になってしまった。真面目になったのなら怠惰よりはよほどいいのでは、と言うのは正論かもしれないけれど……僕としては、自分の選んだことの結果、意図的に性格を変えさせてしまったと思うとあまりにも申し訳なさすぎた。  僕には知りようのない未来の話だけど、ミリーの切り離した怠惰な感情は後の世界でひとりの神になった。後世の人々は真面目になってからのミリーしか知らなかったので、「ミリー様はあんなに勤勉な神様だったというのに、もうひとりの(パーシェル)神様はなんとだらしないのでしょう」と比較されてしまう。その神様も後に事実を知ることになり、「あの勤勉なミリー様、とはなんだったのかね?」と大いにへそを曲げてしまったのだそうだ。
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