無から生まれたもの

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無から生まれたもの

 その小さな子が接触してきた時、僕の周囲にきょうだいは誰もいなかった。いや、もしかしたらクエスは僕の影の中から、僕とその子の会話を聞いていたのかもしれないけれど。その時に確認しなかった以上、どちらだったのか僕にはもはや知りようがないからね。  僕の星はこれから本格的に知的生命体を生息させる環境を整えるための緑化が進んでいる最中だった。僕はひとり、ふかふかとした草の感触を足の裏で確かめながら歩いていた。  その足元に、不意に現れた。僕の太股くらいまでの背丈しかない、小さな人影。僕達きょうだいの中で最も小柄だったエルよりも遥かに小さい……いわば、幼子とみるべきだろう。無言で僕をじーっと見上げていて、動く気配がない。 「君は?」 「なまえ……ゆうり……、ううん。やっぱ『ソウ』でいっか」 「ソウっていう名前なのかい?」 「ほんとだったら、いま、ここであなたとはなせるのは、ソウじゃないんだけど。どうせすべてはまぼろしなんだから、あなたにとっていちばんはなしやすい、すがたでいればいいのかなって」  僕もこの頃に至っては知恵を獲得してからかなりの歳月を経て、最近はきょうだいと話していても「理解出来ないこと」なんてほとんどなくなっていたんだけど。その子の言うことはなかなか理解が追い付かなかった。  ずっとこちらを見上げているのはソウの首が疲れてしまいそうなので、目線を合わせて話せたらなと思った。僕がしゃがんでみるか、彼を抱き上げてみるか。どちらにしようか考えて、僕は彼を腕に持ち上げて抱きかかえることにした。彼の表情は相変わらず、ちっとも動じない。 「ソウはほかのみんなよりうんとちいさなほしだから、みんなとちがってあなたをささえるためのやくわりをなんにも、もてなかった。でもだれよりマリアのちかいところにいたから、マリアはソウにひみつのやくわりをくれたんだ」  たどたどしいソウの説明をゆっくりと咀嚼するように、僕は頭の中で整理する。どうやらソウは「無の神」で、マリアだけが彼の存在を把握していた。  でもソウは、姿は見えなくてもこれまでずっと僕の側にいてくれたらしい。無とは誰にも、いかなる時も隣り合うものだから。
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