無から生まれたもの

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「あなたのほしはにぎやかになったけど、なにもなかったあのころとちがって、これからたくさんのあらそいできずついていく。なにもないせかいは、あらそいのない、だれもきずつかないせかい。マリアがソウにくれたやくめはね、せかいを『なにもない』にもどすこと。あなたがせかいをもとにもどしたくなったら、ソウとその『やくそく』をして」  つまり……僕がいよいよ、「世界に生物を誕生させなければよかった」と後悔した時の為に、たった一度だけ元に戻せる保険……。そういうことなんだろうか。 「ソウは、そのやくめ……『やくそく』いがいになんのいみもない。こころも、からだも、なにももってないから」 「……意味がないなんて、そんなことはないよ。たとえ僕の目に見えていなかったとしても、君はずっと僕を側で見守っていてくれたんだろう? それに、世界は元々、『無から始まった』みたいだよ? 無は『何もない』でも無価値でもなくて、これから、ソウから生まれるものだってきっとあるよ」 「……そう? ある?」 「そうそう、あるある!」  思えば、こんなに小さな人を見て触れたのは僕も初めてだ。たったそれだけで、この子が「無」なわけがない。この星で最初に現れた、たったひとりの子供じゃないか。  大人の体とは絶対に感触が違うであろう小さな頬を、ほんの微か触れる程度に気を付けて、ふにふにと指先で押してみる。今までずっと微動だにしなかったソウの表情は、その時、ほんの少しくすぐったそうに口元に笑みを浮かべていた。
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