創造の代償

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 あの「初めての会議」の場で皆と交わした意見。知的生命体がどんなに努力をしたところで、太陽そのものを害することは出来ない。彼の宿す熱はそれほどに規格外で、近付くことすら不可能だから。  知的生命を作り出したとしても、その暴挙に苦しみ、傷つくのは僕自身(地球)だけだと思っていた。だから、自分さえそれに耐えられるなら構わないと、そう思ったから僕はあの選択が出来た。  自分達が人間に転生して、その人間によって、きょうだいが傷つき、苦しめられる。その可能性を考えていなかったから……。確かに、この事実を知っていてなお、僕は同じ選択をしただろうか? 「私はセレネーの失敗に学び、今後は漠然とした未来予知などではなく、包み隠さず具体的に『結末まで』をお伝えしようと思うのですよ。こんな結末を迎えたくないという強い想いによって、誰かが『決して変わらない運命』を変えてくれるかもしれないですから」  それからしばらく、彼は本筋をやや外れて、彼自身の想いを吐露していた。セレネーや彼のように運命を視る目を持つ者は、どんな悲惨な未来が見えたとしても、彼ら自身がそれを変えることは許されない。その権限を持ち得ない。  だからこそ、悲惨な末路を迎える運命に生まれた者に、未来を伝えることにした。「こんな結末を迎えたくない」と本人が強く願い、抗い、未来を変える。それは他者の介入とは違って、本人の当然の権利だと思うから。 「ソウジュ様。あなたはこれから、マリア様の囚われたあの砦から彼を解放するために、自らの命を犠牲にされるでしょう。本当に、それでよろしいのですか? 例えば今、そちらでお眠りになっている最愛の少女と共に逃げ延びて、自身の幸せを求めようとは、お考えにならないのですか?」 「……君の視たその運命では、僕が計画を実行した場合、目的は『必ず果たせる』のかな」 「……ええ。もし、実行されるのでしたら」  包み隠さず、結末まで伝える。運命視に纏わることで決して偽りは口にしない。そういう信条なのだろう。  自分の言いたいことだけ言って一方的に去っていかれるのは、僕の胸の内にわだかまりが残りそうだったので、悪いけど意趣返しをさせてもらったよ。 「ソウジュ様はただお優しいだけの方ではなく、独特な『心の強さ』をお持ちですね。だからこそかつて、あのような選択を。そしてこれから、自分の選択を貫かれて……私の視た運命を変えてはくださらないのでしょうね」  彼もきっと、わかっていて、そして諦観もあるのだろう。たとえ「具体的な結末」まで伝えたところで、未来が変わらないのは必然だと。その結末に至るのは、「僕が自分らしい選択をした結果」なのだから。
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