そして、世界は今日も続いている

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 私は今しがた拝見した素晴らしいものに感動して、しばらく席を立ちあがれずにいました。 「はぁ~……今回の投影もと~っても素敵で、楽しかったです! ソウ君、付き合ってくれてありがとうございますっ」  どういたしまして、と平坦な声と表情で答えるソウ君はとっくに立ち上がっていて、私は彼を見上げます。彼とは高校入学を機に知り合いました。日頃からあまり表情が変化しないですが、決して「楽しんでいないわけではない」のだと私は知っています。 「コウ君~っ、お待たせしましたぁ~!」  プラネタリウムの入っている商業施設の一階にあるカフェで、コウ君は飲み物を注文して待っていてくれました。 「どうせ同じ時間待ってるだけなんだし、コウも一緒に投影見ればいいのに。入場料金もコーヒー代とほぼ変わんないだろ」 「ソウこそ……これまで飽きるほど本物の星空見てきてるっていうのに、よくわざわざ金払って偽物見ようって気になるよなぁ」  (コウ)君と(ソウ)君は離島で生まれ育ちました。高校がない離島で生まれた子供は、高校に通うために本土の都会にやってきて、十五歳でも子供だけで暮らさなければならないことも珍しくないそうです。  コウ君が本来ならそうであったように「ひとりっ子」だったら、ひとり暮らしをしなければならなかったのでしょうけど……コウ君には、ソウ君がいましたから。ちょっと特殊な事情があって、ふたりは「血縁じゃない兄弟」になりました。だからこの環境下でふたりで助け合って暮らすことが出来て、離島で彼らの卒業を待つご両親は安心しているんじゃないでしょうか。  コウ君が生後六か月の頃。離島の彼の生家の前に、生まれたばかりの赤ちゃんが置き去りにされていました。その子は泣き声すらあげない、とてもとても静かな赤ちゃんだったそうです。  離島は人の出入りが限られているから、赤ちゃんの親御さんは誰なのか、すぐに特定されると考えられていました。ですが、その子がどこから来て、何者がそこに置き去ったのか。どんなに調べても特定に至らなかったとのこと。現代のミステリー、みたいな扱いで全国ニュースにもなってしまいました。  赤ちゃんの今後を行政が決定するまで、ちょうどコウ君のお世話で必要なものが揃っていたのもあって、ご両親が面倒をみてあげることになりました。  関係役所の方がソウ君を迎えに来て、ご両親が引き渡そうとした、その時。  コウ君は自分より小さな体のソウ君を抱きしめて大泣きして、どんなに待っても離してくれなかったのだそうです。  元々、お世話をしてあげたことで愛着もわいていたのでしょう。コウ君のご両親は、これも何かの運命かもしれないと覚悟を決めて。ソウ君を正式に、我が子として引き受けることにしたのです。
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