そして、世界は今日も続いている

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「自分の覚えてない赤ん坊の頃の話、三百万回引き合いに出され続ける俺の身にもなれ……」 「そうは言っても、オレの生い立ちとコウとの関係を説明しようとしたらどうしても触れないわけにいかないし。しょーがないじゃん」  現在のコウ君は人見知りが激しく、人を寄せ付けようとしない性格なので、赤ちゃんの頃のエピソードは大いに意外性があります。その話をされるのが嫌みたいです。 「まあ、そうやってコウが掴んでくれたおかげで、オレは『長谷沢 蒼(ハセザワ ソウ)』になれたんだし。それから何の不満もなくのんびり育ててもらえたんだから、ありがたかったな」  産んでくれた親元から手放されてしまうという、恵まれていたとは言い難いから境遇からスタートしたというのに、ソウ君はそのことを一切負い目に感じていない。コウ君のご両親の人柄が優れていたからこそなのでしょうけど、理由はそれだけではないらしく。 「こんなこと言ったら変な奴だな~って思われそうだから、誰にでも言うわけじゃないんだけどさ。血の繋がらない親が大事に育ててくれるの慣れてる気がするっていうか。置いていかれたからって、オレのこといらなかったとは限らないんじゃないかって思ったりとか。なんなら元から産んだ親なんかいなくて、『なにもない』とこからぽーんって出てきたんじゃないかとすら思ったりしてさ」  前のふたつは素敵なんですが、最後のひとつはあり得ない……と、言いたいところですが、なんだかソウ君だったらそんな不思議も「あり」なんじゃないかって、私もそんな気がしてしまいます。  ともかく、いくつか前の人生でそんな経験したんじゃないかなぁ。ソウ君はそう思っているみたいです。  話を戻しまして。そんな生まれにも関わらず年頃の反抗期すらなくすくすくと素直に育ったソウ君は、先ほどのように何の抵抗もなく「ありがたかった」と言ってしまえる人です。一方、それを言われたコウ君はあんまり素直になれない性格の人なので、そんなやり取りがある度ににがぁ~いお顔で口を波打たせるように噤んでしまうのです。  本日のようなお出かけに自分は用事もないのに付き合ってくれているのは、コウ君は放っておくとずっと家に閉じこもりがちになってしまうので……このような適当な理由が見つかると、ソウ君がもののついでにコウ君を引っ張って連れ出してしまうからでした。  そんな感じで何もかも正反対なふたりなのに、相性も息もぴったり。そして彼らを傍から眺めている私はそんな関係を、「なんだか、いいなぁ」って思ってしまいます。自分でもちょっと不思議なんですけど、胸の中が温かな気持ちになるのです。
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