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1話
寝ても覚めても、瞳は光を浴びることはない。
私はいつも真っ暗なままだ。
故に、私はよく分からなくなる。自分がどう生きているのか、見失う。
「..柊月..居る?」
「はい」
凛とした声色。メイドの柊月の声で、少なからず不安めいたものが消えた。
ずっと私の側に居てくれたようだが。時の経過が正確には掴めないが、きっとあれから長いこと経ったのだ。
「柊月疲れてない? 座ったら? ずっと立ってるんでしょ?」
「いえ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
「でも」
「大丈夫です」
頑なに譲らない柊月。それ以上、勧めるのも躊躇らわれた。
私は柊月に問うた。
「柊月、私寝てたみたいだけど、いつ起きた?」
「いえ。寝てないですよ、琴巴様。私が本を読み聞かせていても、琴巴様はずっと起きておりました」
「そうなんだ..」
まさか、そんな盛大な勘違いをするとは。自分という存在が、疑わしく思われる。
あれほど、夢心地だったはずなのに、私はずっと起きていたのだ。まるで巧妙な叙述トリックに、まんまと引っかかった心持ちがする。
「琴巴様。余り気になさらないで下さい」
「..えぇ、そうよね」
別に、今に始まったことじゃない。これが私という、程式琴巴の在り方なのだ。何も気にする必要などない。
ボーン。
下の階で、報せの鐘が鳴る。
今の私には、その鐘がとても有り難かった。
虚しい私の心に、やるべき事で埋め合わせ出来るから。
「じゃあ、柊月。夜の散歩に出掛けようか」
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