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それでも帰れと言われないところを見ると、体で返せとくるか、身売りされるか、臓器を寄越せ……とかかもしれない。
いずれの扱いでも借金さえ消えれば構わないのだが。
「我が家は慢性的に嫁さがしに不自由しておりまして、正直、あなたをこのまま返すのは惜しいと思っております」
ああ、別の夫をあてがわれるのか。
それならいっそ、立派におば達の枕元に立てるようなキツイ方を見繕ってください。
しかし、トムズの次の言葉に耳を疑った。
「このままここに残って、屋敷におります成人した者の中からどなたか一人、気に入った者に嫁いでくださるというお約束で、残額をご用立てするということにしていただけないでしょうか」
「――!?」
いやいや、ちょっと待て。
しばらく頭を使う事を休んでいた私の脳に、猛烈に血が送り込まれた。
今、何か、すごく困ったこと言われた。
つまり、私に一番好みの男を選んで結婚をしろということか?
(こ、困る!)
借金的には困らないけど、流石にそれでは筋が通らない。
私に利があり過ぎる。
どう考えても借金の金額が大きすぎるのだ。
私を売って、父をどこかの国の奴隷に売って、家を売って、土地を売って、商売を売って、妹たちを売って、それでもちっとも足りない金額の用立てをしてもらえるほどの契約だ。
さらに叔母が使い込んだ結婚の準備金だって踏み倒したままだ。
普通に考えて、良い結婚をさせてもらっていい額ではない。
何も知らない娘の振りをして、それならばと提案を受けるのは容易いが、それがいかに不義理で恥知らずな行いなのか私にはわかる。
自分が数字の数えられない人間でなかったことを神に感謝した。
この提案を甘んじて受ければ、カヤロナから穀物を買った祖父のなけなしの良心すら汚すことになっただろう。
恥知らずにも、そんなことになれば、おば達に一泡吹かせてこの世からおさらば計画はさらに酷く陳腐なものになる。
喜んで迎えられ、愛し愛され、夫を選んだような姪が恨み言を言っても愚かなだけだ。
私を一番粗雑に扱ってくれる下衆でなければ、枕元に恨めしそうに立てたものではない。
幸せな結婚ができて良かったじゃない、私が逃げてあげたお陰ね、なんて言い返されたら目も当てられない。
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