母の亡霊

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「叔母だって借金の返済の駒となることを拒否する、大きな理由があったのかもしれませんし」  こそこそと下を向くくらいには気が咎めるのだろう。  ただ、私にとってはどうでもいい人だ。  そんな人に一秒だって心を砕くわけにはいかない。  私の心は今はもう自分だけのものでは無い。  私が叔母に傷つけられる事を気に病む人がいるのだから、不用意に傷つけられてなんかやるものか。  この人は、私を慈しんでくれた人でもないし、直接害してきた人でもない。  つまらない感傷の為に、この人に時間を使うくらいなら、愛しい人のために激痛に耐えるような時間の使い方をした方が有益だ。 「その人も、母やもう一人の叔母がもう居ないと分かって、ぐっすり眠れるようになるでしょう。私はもう言うだけ言ったので、いいのです」  今は、母のあたたかい思い出だけが心に残っている。 「竜と違って、ヒトの血の繋がりなんて、いい加減なものなんですよ」
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