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「あのね、ヒースのお母さんも、ヒースを愛していたわ。私があなたを愛しているように」
ヒースの美しい目が大きく見開かれる。
「どう、悪い魔法は解けた?」
「…………解けた。……が、後半の魔法が良く聞こえなかった」
嘘おっしゃい。
「耳が悪くなったの?」
「心配しなくてもいい。サリがもう一度言えば、小さな声でも聞こえるから」
そうよね、竜は耳がいいものね。
ヒースの頭を抱きかかえるようにして、うんと小さな声で耳元で囁く。
「……ヒースの事を、愛してるわ」
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ハウザーとエミリアの結婚式が執り行われた。
エミリアは宗派も違うのに、王都で一番大きな教会を借上げて、盛大に式を執り行い、ハウザーと共に城下を練り歩いた。
華やかな花嫁と、美しい花婿に人々はバロッキーと知りつつも遠巻きに見物していた。
エミリアはドレスを何着も着替え、披露し、道ゆく少女たちに布地や小物を配り、相当な宣伝を行った。
商魂たくましい。
エミリアの次の戦いはもう始まっているのだ。
この国と、バロッキーの関係は変わっていくだろう。
私たちが小さな小さな種を蒔いているから。
それはイヴさんが蒔いた愛情という種でもある。
能力を除いても、家族の愛情を浴びて育ち、愛のために生きるバロッキーの男たちを欲しがる者は多いだろう。
これから私は、バロッキーの子どもたちが国に阻まれずに相応しい相手にたどりつく仕組みを作らなければ。
国の内部には足掛かりが出来たし、急ぎの案件に武者震いする。
普通に考えれば、こんな優良物件、誰が袖にするものか。
エミリアも私も竜の妻となる以上、やがて竜の母となる事もあるだろう。
私たちの子は、まだ国と市井の不理解に泣くだろう。
でも、私たちは絶対にその子たちを泣いただけにはしない。
次の時代をつくる子供たちを育む、強い母になろうと思う。
何代か先、市井に溢れ出す竜の子供たちを、王家が制限出来なくなった時が私たちの勝利だ。
秘密は明らかにされ、王家の謀は薄い上澄みのようになっていくだろう。
結婚式の余韻を残して、庭に張った天幕に夕方の優しい風が吹く。
もう、ここに来て一年も経つなんて、驚きだ。
遠くでルミレスが皆から責められている声が聞こえる。
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