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ラーメン
塩作りの小屋の一角に、ちょっとしたキッチンがあり、そこで湊斗が鍋を用意してお湯を沸かし始める。
「麺はインスタントやけどな。田中のおっちゃん所のあご煮干しをちょこっと焼いて出汁とって、ウチの塩でいい塩梅に……」
焼いたあごの煮干しが香ばしい煙を上げている。
その香りが鼻をくすぐり、おなかが鳴りやまなくなった。
「腹減ったってことは元気な証拠や」
ビール瓶のケースの上に板を置いただけの簡易テーブルに、湊斗が出来上がったラーメンを二つ持ってきた。
「同じ器じゃないけど、店じゃないから気にすんな?」
「具、入ってない」
「贅沢言うな。食わんのか?」
「食う」
湊斗がフッと笑って割りばしもよこした。
フーフーと少し息をかけて程よく冷まし、麵をすする。
「美味しい!」
「やろ?前の満月の時の塩で作ったんや。満月の時は海の中でサンゴやらいろんな生き物が産卵したり、引力で海の中が攪拌されて栄養豊富な甘い塩ができるんやけど……聞いとらんな」
麺に絡んだスープが、シンプルだけど素材の味と塩味の絶妙なバランスで、夜中なのに箸が止まらない。
向かい側に座った湊斗が、少しだけ結月の反応を確認して、自分も食べ始めた。
「はー!美味しかった!」
あっという間に具なしの塩ラーメンをスープまで飲み干した。
「飲んだ後のラーメンは最高よな」
「え?私そんなに酒臭い?」
「まあ、ちょっと。それより……」
湊斗が結月の顔をまじまじと見て吹き出す。
「すげー顔。目ぇボンボンに腫れて、ハロウィンメイクみたくなってるぞ」
堪えるつもりもない様子で腹を抱えてゲラゲラ笑う。
「は~~ウケる。その顔、誰かに見られたらどーすんや?」
「そこまで遠慮なしに……ちょっと、涙流して笑わなくてもいいでしょ!?こんな時間だし、誰にも会わずに家帰るはずだったの!そしたら、帰り道に湊斗がいるから」
「会ったのが俺で良かったな」
「ホントだよ」
「……そんな顔、誰にも見せんなや」
今の今まで馬鹿にして大笑いしていた湊斗の眼差しが、少し憂いを帯びたものに変わった。
きっと心底可哀想なヤツと思われている。
「見せないわよ!好きでこんな顔になったんじゃないわよ!」
そう言った時、また叶わなかった恋を思い出してしまった。
すっかり枯れたと思った涙がまたポツリと落ちた。
湊斗は何も言わず、空になったラーメンの器を二人分重ねて流しへ運ぶ。
「何も聞かないの?」
「さっき聞いたやん。好きな男とうまくいかんかったんやろ?」
「もっとこう、具体的に、何があったとか」
「聞いてほしいんか?」
「……やっぱりいい」
「あっそ」
「……あのね」
「喋るんかい」
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