八つ当たり

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八つ当たり

 泣きすぎてしゃっくりが止まらない。  この涙を表現するなら、ポロポロではなく、ツーッと、でもなく、ダバダバ。  口に入ってしょっぱい。  今鏡がないから確認できないけれど、アイライナーもマスカラも涙で流れて酷いことになっているだろう。  でもそんなことはどうでもいい。  夜の海辺。  夏休みも終わってひと月も経つと、綺麗な景色を観に来る人も少なくなり、夜のこの時間は誰もいない。    この浜辺の、砂浜の端に迫り出した岩があって、他の場所よりも波が砕ける音が大きい。ここでは人と話す時、かなり大声でないと会話できない。つまり、何か叫んでも今の時間なら誰にも聞かれない。  昔から何かあると、家から歩いて来られるこの場所で泣く。  海に八つ当たりして、叫んで、負の感情を吸収して貰う。 「海の馬鹿ー!」  今日は満月だから、月にも八つ当たりしよう。   「月の馬鹿ー!」  喉が酒焼けで枯れている。 「私のバカ-!馬鹿!バカ!ばかやろー!」  叫んでも声がカスカス。  側から見たら目も当てられない醜態。    こんなに好きだったなんて。    人のものになって気付くなんて。  どんなに後悔しても遅い。  ――今の関係を壊したくない。  ――このままでいい。  自分に勇気がない事をそんな風に言い訳して逃げてきた結果だ。    自業自得だ。 「結婚おめでとう!」  なけなしのプライドを総動員して、笑顔で伝えた。  自分で言うのもなんだが、アカデミー賞ものの良い演技だったと思う。
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