<31・強気の交渉。>

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『兄弟姉妹で殺し合うことなく、傷つけあうことなく、穏便に次期皇帝が決まるといいわね。やっぱり、お父様の代と同じ過ちを犯すのは悲しいことですもの……』  その言葉を聞いた時、多分レネ以外の者達、ルーイとオーガストとアイザックは揃って同じことを思っただろう。 ――嘘つけ!!  今までガブリエラが何度もアイザックの命を狙おうとしてきたことはわかっている。先日のアイザックを手榴弾で襲撃した男も、ほぼほぼガブリエラの手のものと見て間違いないだろう。  一般民衆を巻き込んでもいいからアイザックを殺そうとした、というのが透けている。それなのによくもまあ、いけしゃあしゃあと、殺し合いなんてしたくないなんてことが言えたものだ。 「……ルーイ」  その日の夜。再び執務室で残業をしていたルーイに、レネは声をかけた。 「本当にいいのかよ、皇子様もアンタも。……誰がどう見ても罠だぜ?」  なし崩しで、“ガブリエル”の訓練場を借りて合同演習を行うことになってしまった。両部隊のメンバーを皇子・皇女に戦わせるいわば代理戦争である。確かに、アイザックもガブリエラに対して“正々堂々とした勝負での決着”を提案するつもりではいた。しかし、もう少しイカサマの入らない、それでいて怪我の危険が少ない勝負にするつもりであったことだろう。  それが、押し切られる形で合同演習になってしまった。もちろん演習であるので実弾を使うわけではないだろうし、互いにペイント弾で撃ちあって陣地を守るサバイバルゲームのような方式を取られることは想像に難くないが――そのペイント弾の中に実弾を紛れ込ませるくらい、ガブリエラならやりかねないのである。  何より、演習の場所があちらの訓練場。いわば、こちらはアウェイでの戦いを強いられるわけだ。  どう考えても不利。それこそ地面に地雷でも埋められて吹っ飛ばされるなんてこともあるかもしれない。 ――それに。演習に集中している間に、皇子が直接狙われるってことも考えられる……。  どちらにせよ、何も企んでいないとはとても思えない。  一応このあと詳細を話し合うにあたり、互いに“負けたら、勝った者を次期皇帝に推す”という誓約書は書くことになったが。その誓約書に関しても、おかしな文面がないか逐一チェックする必要があるだろう。向こうのことだから万に一つも自分達が負けない勝負を考えているだろうが、こちらが勝った時妙なゴネられ方をしてはたまったものではないからだ。  無論それはそれとして、当日まで自分達もその状況を想定して十分に訓練を行う必要はあるが。 「まあ、罠ではない、はずがないですよね」  ふう、と書類から顔を上げてルーイが言った。 「それでも、勝負はしなければならなかったのは事実。ある意味、今回のことはチャンスかもしれない、とアイザック様はお考えなのでしょう」
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