<30・孤高の女王。>

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『ガブリエラ姉様には、勝負を持ちかけようと思っている。その勝負で勝ったほうが次期皇帝になる、とね。姉様の性格上、確実に乗ってくるとも。わたしが邪魔なのは姉様も同じなのだから』  それは、アイザックが会談であとの三人に言った言葉だった。  話だけでガブリエラを説得するのはあまりにも難しい。だったらいっそ、ゲームで決着をつてしまえばいいと。  まさかその日のうちにガブリエラから連絡されるとは思っていなかったが。 ――四兄弟が結託したことを知って、勝負に出てきたか。  レネは苦々しく窓の外を見つめる。  こちらが小細工する前に手を打ってきたわけだ。やはり、彼女も一筋縄ではいかないらしい。先んじて招き入れることによって、少しでも有利な条件でゲームをしようというつもりなのだろう。  そのゲームが“交渉”なのか“戦い”なのかはまだ定かではないが。 「殺されにくい状況とはいえ、我々は今から敵の本陣に乗り込むわけです」  一応自分も意見を言っておくべきか。レネも口を開く。 「不利なゲームを強引に押し付けられる可能性もありますし、用心するに越したことはないかと。密室で起きる出来事に関しては、誰にも証明することができないのですから」 「わかってるさ。だからわたしも丸腰ではないし、君達にもついてきて貰っただろう?頼りにしてるよ、しっかり働いてくれたまえ」 「そんな明るく能天気に言われましても……」  大丈夫かなぁ、とレネは助手席のオーガストに視線を投げる。オーガストもかなり嫌そうな顔をしている。青ざめていると言ってもいいほどだ。よっぽどガブリエラのことが苦手らしい。  まあ苦手だからといって、万が一の時戦えないなんてことはないだろうが。 「見えてきた……!」  そのオーガストがぽつりと呟く。レネはふたたび窓の外を見た。背の低い黒い並木道、その向こうに赤い屋根の派手な屋敷がある。飾り付けられているレリーフの天使は、彼女を象徴する天使である“ガブリエル”だろうか。  無事に帰ってこれるといいけれど。レネの考えをよそに、車は進んでいく。  そして。 「勝ったほうが正義。それでいいでしょう?」  自分たちを招き入れてきたガブリエラは、笑顔で提案してきたのだった。 「即ち、お互いの部隊……“ガブリエル”と“ミカエル”の精鋭で、合同演習をするということよ。次期皇帝の地位を賭けて、ね」
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