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4-4 ベーカリー
またすぐ寝ちゃった……。
先週と同じようにアラームで目が覚めた。彼の胸に顔を埋めた途端記憶がない。
行為の疲れもあるが彼の体温と肌の感触が安心感をくれて心地良すぎる。
コロっと寝るのは子供みたいで恥ずかしいし、満たされた気持ちで彼に甘えたり寝顔も見てみたい。やってしまった気持ちを引きずりながらリビングへ向かう。
「おはようございます。またすぐ寝ちゃいました」
「おはよう。寝て構わないよ。寝顔も可愛いし」
「私も兄様の寝顔見たかったのに。次は頑張ります」
「そうやすやすと見せられないな」
彼は悪戯っぽく笑う。
「コーヒー飲む?」
「はい、ありがとうございます」
カプセル式コーヒーメーカーなので種類がたくさんある。
「どれがいい?」
「ブレンドで」
「ブレンドね。座ってて、持っていくから」
彼の気配りは本当に素敵だ。彼女や妻になれる人は幸せだろうな。
「はい」
ソファーテーブルにコーヒーを2つ置いた。
「ありがとうございます。いただきます」
お礼を言ってコーヒーを一口飲んだ。ひと息ついたところで彼が口を開いた。
「ね、今日予定ある?」
「いえ、帰るだけです。授業の課題も急ぎのものは無いです」
「じゃあさ、一緒に朝食行かない?近くに良いベーカリーがあるんだ。テラスがあってイートインのメニューもあるよ」
マグカップを置いて彼の方を向く。
「是非行きたいです。パン屋さんの朝食なんて素敵」
「良かった。歩いて10分くらいなんだけど開店が9時なんだ。ゆっくり準備していいよ。良かったらシャワーも使って」
「はい、お借りします。すみません」
昨夜も大分汗をかいて髪も乱れてしまった。
「この家は自分の家だと思って」
「ありがとうございます。なんだか同棲みたいですね」
照れながらも少し勇気を出して言ってみる。
「それいいね。二人っきりでここに住む?」
私は曖昧に笑って浴室へ向かった。
彼は先週から甘い言葉をくれるが、真意が見えないため表層的な会話に思える。同棲なんて言葉も使ってみたけど彼は何も動じない。きっと経験値が違い過ぎる。
今のこの時間は教育のためにあるのは分かっている。将来結ばれる事もないけど、彼も私を欲してくれていてくれたら、と考えずにはいられない。
先週は嘘でも構わないと思っていたのに。
割り切る事も踏み込むことも出来ない自分に対しネガティブな気持ちが心をかすめた。
シャワーを浴び髪を乾かしメイクをして外行きの服に着替える。少しお腹が減ってきた。その間彼はリビングでノートパソコンを開き仕事をしていたようだ。
開店少し前に二人でマンションを出て、手を繋いでベーカリーに向かって歩く。まだ日差しが強く、今日はいい天気になりそうだ。
彼が住む街並みをキョロキョロ見渡す。
「何か気になるものあるの」
「いえ、兄様が住んでいる街を見てみたくて。よく出歩かれるのですか」
「ああ、引っ越したばかりの頃はたまに出歩いてたけど今はそんなに。今から行くベーカリーは人に教えてもらってよくお世話になっているんだ」
彼がこの街を歩く姿を想像する。
一人で、なのかな。
「楽しみです」
笑顔でそう返したが、先ほど生まれたネガティブな感情が心にじわじわ広がるのを感じた。
ベーカリーは道路側にテラスがあり高級かつお洒落な店構えだった。
さまざまなパンとワインやジャム、コーヒーなどのパン以外の食品や食器・エコバッグのような雑貨まで置いている。
色とりどりなパンに目を奪われていたら
「テラス用の食事があるからそっちも見て考えよう」
と声をかけてきた。
ピザやサンドイッチ、ラザニアなどの食事メニューや販売されているパンとのセットメニューもある。どれも魅力的で決まらない。
「ゆっくり決めていいからね」
「兄様は決まりましたか」
「うん。俺はオープンサンドイッチのセットにするよ」
「いいですね。美味しそう」
やはりパンは食べてみたいので季節の野菜のチーズフォカッチャとラザニアセットに決めた。
テラス席で待っていると料理がきた。
長方形の木製トレイに盛り付けられいかにもSNS映えしそうだ。
「食べよっか」
「はい、いただきます」
アイスティーで喉を潤し、手づかみでフォカッチャを頬張る。
「すっごく美味しい。野菜の旨味が出てる」
「いい顔で食べるね。その顔見てるとこっちの料理もより美味しく感じられそう」
「一緒に食べると美味しいですよね」
好きな人と、と心の中で付け加えた。
セットのサラダやミニラザニアも堪能し、お洒落なベーカリーでの朝食はとても幸せなひと時になった。
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