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5-2 彼女の世界(光瑠視点)
彩音の後、風呂へ行き頭と体を洗って湯船に浸かる。今日のバスソルトは金木犀の香りらしい。普段はシャワーで済ませることが多いが、せっかく彩音が入れてくれたので入らせてもらう。
学園祭でオーケストラか……
学生生活を満喫するのは良いが男は何人くらい居るのだろう。悪い虫が寄って来るのではないか。彼女は大学で学友達とどの様に過ごし、どんな顔を見せているのか。
中学高校時代の彼女はクラスメート達と一定の距離を保っていた。
大学に入学してから同じ学部の友人の個人名が出てきたり、部活動に参加するのは彼女の人生にとっていいことだと思う。応援もしたい。でも……
このモヤモヤの原因はただの心配や嫉妬ではない。彼女が大学入学した直後ここに引っ越し、離れていた間に出来た人間関係。後悔と焦りが俺の心に影を落とす。
それでも今彩音の隣にいるのは俺だ。このチャンスを絶対モノにしないと。
風呂から上がると彩音はリビングに居なかった。もう寝室に行ったのだろうか。
「彩音?」
後ろ向きにベッドに座っていた彩音の肩がビクッと跳ねた。様子がおかしい。
「あの」
「もう眠くなった?寝てもいいんだよ」
「いえ、違うんです。ちょっと恥ずかしいんですけど」
「うん」
彩音の隣に腰を下ろした。
「教育はちゃんと進んでいるのかなって。テクニックの様なものがあるのではないかと」
恥ずかしそうに顔を赤らめて俯く彼女が最高に可愛い。
「彩音にはそんなの必要ないよ。そのままで充分魅力的だから」
「でも東雲家の習わしだし……その、口でするとか」
心臓が止まりそうになった。彩音からそんな言葉が出るなんて。
「そんなのどこで覚えたのさ」
「小説で。最初知った時は衝撃を受けました」
ぎこちない笑顔を向けてくる。
そうだ、人間関係だけではなく彼女だって本やメディアから色んな情報を得て世界を広げている。ずっと俺の知っている彼女のままでいてくれると思ったら大間違いだ。
とはいえ、彼女に口でしてもらう心の準備なんてしてない。ここは代替え案だ。
「わかった。今日は違う体勢にしてみようか」
彼女は目を見開いた。
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