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6-1 リハーサル
オーケストラ部は基本パートに分かれて練習し、週に1回全体練習の時間を設けている。
事前に部長である3年の小林先輩に演奏を聴いてもらい打ち合わせをして本番2週間前に初めて部の皆と合流した。
部の皆は温かく迎えてくれ、同じ学年の女子たちは気さくに話しかけてくれる。
部長に外部の人間がソロなんて反発はないのかと聞いてみたが「ウチの部は伝統的に個人が目立つことより皆でいい演奏をするっていうのがモットーだから」とピースサイン付きで言われた。
皆のモチベーションの高さにも驚いた。音大を目指していたような実力者もいるし、わざわざ大学でまで時間を割いて音楽をやる人は本当に音楽が好きなのだと思った。
プロの指揮者は多忙なので練習では学生が代理で指揮を務める。彼はバイオリンも弾けるので本番は第2バイオリンで参加するらしい。
他人と演奏を合わせることは初めてで戸惑ったものの数十人で構成されるオーケストラが自分のピアノに応えるように伴奏してくれることはとても楽しかった。
そして本番1週間前の土曜日の今日、初めて指揮者が練習に参加する。
席の近いバイオリンの子達と話していると練習室のドアが開いた。
「皆さん、こんにちは。指揮を担当します板倉です。遅くなってすみません」
部員から拍手が起こった。指揮者の板倉亮司はウェーブのかかった髪をセンターで分け、整った顔立ちだが鋭い印象を受ける。
「東雲さん、話は聞いてるよ。よろしくね」
「はい。よろしくお願い致します」
立ち上がってお辞儀をした。
リハーサルはスムーズに進んだ。板倉さんは腰が低く、ユーモアを交えながら改善点を指摘していく。
小林先輩からリハの時間があまり取れないので板倉さんに動画を送っていいかと聞かれ快諾した。彼もこのオケのために準備して来たのだろう。
「じゃあラフマニノフはここまで。皆さんよく練習してますね。東雲さんも素晴らしかったです。先程指摘した箇所、次までにお願いしますね」
「はい、ありがとうございました」
私は笑みを浮かべながらお辞儀した。
予定通りコンチェルトのリハは30分程度で終わり、皆は編成が変わるため席を動かし次の曲の準備をしている。帰り支度をしていたら小林先輩が声をかけてくれた。
「彩音ちゃん休みの日にありがとう。また月曜によろしくね」
「こちらこそありがとうございました。来週まで修正してきます」
小林先輩は首を振る。
「彩音ちゃんは素晴らしかったわ。問題は私たちオケよ。相当頑張らないと」
「皆さんも凄かったです。一緒にやっていて本当に楽しいですし。本番まで頑張りましょう」
バイオリンの子達も声をかけてくれ、引き続き頑張ってね、と言って練習室を出た。
彼らと良い演奏をするためにも頑張らないと。
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