7-1 学園祭本番前

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7-1 学園祭本番前

 学園祭当日。  集合時間より少し早く来て学内ホールを覗いてみた。  ダンス部が有名なアイドルグループの曲でカバーダンスを披露している。客席から歓声があがり女の子達が声を揃えて名前を呼んだりしている。    学園祭ってこんな感じなんだな。    明日の夜には終わるこの祭りを今この瞬間目一杯楽しむ。学生生活の醍醐味だ。  なぜか自分は混ざってはいけない気がして、去年は来なかった。改めて誘ってくれたオーケストラ部の皆に感謝する。  ホールのロビーに何個かスタンド花があり、OBや学生有志から寄せられたものの中に東雲グループの名前でオケ部宛てにスタンド花が届いていた。  今朝彼から連絡を貰った時は花のことなんて言ってなかったのに。  約束通り聴きに行くから頑張れとメッセージをくれた。  何度も見たその画面をもう一度見てスマホを握りしめる。    「届きますように」  彼が贈ってくれたであろう花に向かって呟く。  私は本番の準備をするため集合場所へ向かって歩き出した。 「彩音ちゃん、ほんっと綺麗!見惚れて弾けなくなっちゃうわぁ」  ホール裏の楽屋でコンマスの小林先輩やバイオリンの子達が着替え終わった私を見てはしゃぐ。 「ありがとうございます」  私はいつもピアノの時はストレートヘアと決めているので整髪料で髪を整えヘアアクセサリーを付け、少しメイクを直した。今日披露する2曲どちらとも合うように真紅のAラインロングドレスをチョイスした。    皆はステージに備えてそれぞれの時間を過ごしている。  楽器を握りしめて精神統一している人、同じパート同士で確認を繰り返す人、そわそわしながら手を温めている人。  指揮者の板倉さんはオケの皆に声をかけて回っている。私達の方へもやってきた。  「小林さん、今日はよろしくね。オケの皆、いい緊張感があるからきっとうまくいくよ」  「はい、皆頑張ってきましたから。今日はよろしくお願いします」  小林先輩が頭を下げる。  「うん。準備は万端だからあとは楽しんでやろう。東雲さん今日は一段と綺麗だね」  板倉さんは私に視線を移す。 「ありがとうございます。精一杯がんばります」  お辞儀をして微笑む。 「東雲さんは最初から完璧だったから。今日もいつも通りいい演奏を期待してるよ」  板倉さんの手が私の肩に触れようとしたとき小林先輩が手をパシっと掴んだ。    「セクハラですよ。乙女の柔肌に触ろうとするなんて。お兄さんに怒られますから気を付けてください」  小林先輩がかばってくれた。板倉さんは楽しそうに笑いながら小林先輩に顔を寄せる。 「日本は厳しいな。ま、お兄さんは怖そうだよね。じゃあ皆よろしくね」  彼はまた含みのある笑顔を私達に向け、スッと去っていく。  小林先輩が私の方を振り返る。 「もーあれだからモテ男は。音楽家としては素晴らしいんだけどね。彩音ちゃんごめんね」 「ふふ。大丈夫ですよ」  板倉さんは私に触りたいというより小林先輩とのやりとりの方が楽しそうに見えた。  演奏会のために頻繁に連絡を取っていたらしいし、コンマスと指揮者の絆のようなものがあるのかもしれない。    そうこうしているうちに学園祭実行委員が出番を告げにきた。   「オケ部の皆さん移動お願いしまーす」    いよいよ私の学生生活の醍醐味だ。  
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