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7-3 花束
終わった。
演奏会はまだ1曲あるが、私の出番は無事終えることができた。
舞台袖にはけたらオケ部の皆が温かく迎えてくれみな笑顔で褒めてくれ労いの言葉をくれた後、最後の一曲を演奏するため慌ただしくステージに再び出て行く。
最後の一曲は戦時中に作られた勇ましい、迫力満点の交響曲。
皆の顔にも充実感に満ちているのが見てとれた。
本当、頑張ってきて良かった。人と協力して1つのことを成し遂げるとこんな達成感が得られるなんて。
これを知らずに大人になっていたらつまらない人生だったかも、などと思った。
皆の演奏を聴きながら自分のピアノを振り返る。
とにかく夢中であまり覚えていない。財界の有力者たちの前でもここまで緊張しなかった。
オケ部の皆が頑張って目指してきた演奏会、しかも小林先輩達3年生は引退公演であるこのステージを私が台無しにしてはいけないと思い必死だった。
そんな中でもオケの皆や指揮者の板倉さんとアイコンタクトをとり、お客さんも聞き入ってくれてすごく楽しかった。
「愛の夢」も想いをたっぷり込めて演奏できたと思う。
彼に伝わっているといいな。
最後の曲が終わり、全員で挨拶するため私もステージへ戻る。
指揮者の板倉さん、コンマスの小林先輩とそれぞれ握手をしてお互いを讃えた。客席も割れんばかりの拍手や指笛、歓声を送ってくれる。
最後に皆で客席にお辞儀をし、演奏会は無事幕を閉じた――
と思って舞台袖にはけようとしたら下級生らしき女の子数人がステージの下から小さな花束を持ってきてくれた。
小林先輩が「行ってきなよ」と言ってくれたのでステージの端に設置された階段を使ってステージを降りる。
「素晴らしかったです」「泣きました」「これからも推していきます」などの言葉と一緒に笑顔で受け取る。
彼女たちと話したことはないが顔は見覚えがあった。わざわざ花まで持ってきてくれて有難い。
周りを見渡すと他の部員も家族や友人たちから花を貰っている人がおり、引退する3年生の中には涙している人もいる。
「彩音!お疲れ様」
敦子と美園も二人で花束を持ってきてくれた。
「来てくれてありがとう、二人とも」
花束を受け取り満面の笑みでお礼を言うと
「すっごく良かった」
「詳しい感想はまたゆっくり話すね」
と彼女達も笑顔で言ってくれた。
「彩音」
聞き覚えのある声の方向に視線を向けると白いバラの花束を手に優しく微笑む愛しい人がいた。
ブラウンのロングジャケットで少しフォーマルな格好をしている彼はホールの強めの照明に照らされていつも以上に素敵で、花束を持つ姿は王子様のようだった。
「素晴らしかったよ。感動した」
「ありがとう」
花束を受け取ると何故か拍手が起き、彼と顔を見合わせて苦笑いした。
恋人に見えてるのかな、とくすぐったい気持ちになった。
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