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8-1 終演後
いつもの練習室に戻ると皆テンション高く賑やかだった。
緊張や連日のリハーサルで疲れもあるだろうが、皆充実した表情をしている。
仲良くしてくれた部員と連絡先を交換し、定期演奏会を聴きに行く約束もした。
そんな中、彼から部長に挨拶したいとメッセージがきた。
小林先輩に事情を話し、一緒に練習室出ると近くの椅子に彼がいた。
「二人共お疲れ様でした。素晴しかったよ。とても学生とは思えないくらい」
彼が立ち上がって私達に声をかける。
「ありがとうございます。彩音ちゃんすごく頑張ってくれていい演奏会になりました」
小林先輩が深々とお辞儀をする。
「うん。素晴らしかったよ」
彼が私に視線を移す。
「兄様、スタンド花ありがとうございました。その上素敵な花束まで」
小林先輩の前なので兄妹として振る舞う。
「それはね、私が絶対持ってこいって言ったのよ」
小林先輩がニヤニヤしながら私と彼を交互に見た。
「実は学生課を通じて連絡もらったの。演奏会に花を贈っていいかって」
「えっ」
「スタンド花出したいって言って下さったんだけど、そんなのいらないから彩音ちゃんに豪華な花束持ってこいって言ったの。彩音ちゃんずっとお兄さんにいい演奏聞いてほしいっ言ってたもんね」
小林先輩は満面の笑みでピースサインを作る。
すると彼も横から
「それだけじゃないよ。機材を進呈するから部で撮影する記録映像を横流ししてもらう取引もしてる」
と悪びれもなく言い放つ。
私は呆れる。
「兄様、学生相手に賄賂ですか」
「ごめん。でもおかげで良い音質と映像を父さんに届けられる」
驚いて彼を見返すと彼は微笑んで頷いた。
「実はあのスタンド花、父さんからなんだよ。彩音がお世話になるオーケストラ部の皆さんにって」
「そうだったんだ……」
彼が用意して東雲から、という体裁をとったのだと思っていた。父が今日の事を知ってくれていたとは。
「彩音ちゃん、本当にありがとう。私達3年の学生最後の演奏会、とってもいい思い出になった。今度お茶しよう」
「はい、楽しみにしてます」
小林先輩と笑顔で固く握手を交わし、お世話になった練習室を後にした。
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